文と写真●Believe Japan 2025/10/24(金)配信 「最小単位から新しいモビリティの未来を作っていく」。ダイハツの「e-SNEAKER」は、いわゆる電動車いすでありながらも、従来の電動車いすとは違ったアプローチで開発された。その新鮮なルックスは、大阪・関西万博でも老若男女を問わず、大好評をもって受け入れられたという。ここでは、「e-SNEAKER」が生まれた背景と、開発におけるこだわりを開発に携わったエンジニアから解説してもらった。 「乗りたくない」を「乗りたい」に変える挑戦 e-SNEAKER最大の挑戦は、電動車いすにまつわる従来のイメージを覆し、「乗りたい!」と思わせることにある。外出と社会への参加を促し、人の心身の衰えを防ぐ取り組みにおいても、移動手段は重要な課題だ。しかし、電動車いすには、歩行が困難な人が仕方なく乗るものというイメージがまだまだ根強く、抵抗感を持つ人が少なくない。e-SNEAKERプロジェクトの取りまとめを行った鐘堂信吾氏は、自身の体験も交えて、電動車いすに対するイメージを変えたかったと語る。 「ダイハツは、モビリティを通じてお客様の生活を支える使命のなかで、運転を引退した後の移動手段まで、生涯にわたる移動をサポートする責任があると考えております。そして、『最小単位』にこだわりものづくりを行ってきたなかで、モビリティの最小単位はなにかと考え電動車いすのカテゴリーへの挑戦が決まりました。かつて私自身が手術を受けたときに車いす生活を送った経験があったのですが、やはり車いすに乗ることには心理的な抵抗がありました。身体の不自由さを象徴するような気がしたからです。だからこそ我々は、お客様が積極的に『これなら乗りたい』と思っていただけるような商品を作りたいと考えたのです」。 そこで辿り着いたのが、歩行する人間と同じ目線になるよう、座る位置(アイポイント)を高くすることだった。 「歩くと同じ目線で移動できることは、乗る人の気分に大きく影響します。これは譲れない必須の要件でした。しかし、重心が高くなると転倒しやすくなるという背反が生まれます。この課題を解決するため、サスペンションで不安定さをカバーし、ホイールベースを広げることで、乗り物としての安定感を確保しました」 シンプルな技術と操作性 e-SNEAKERは、シンプルさにもこだわっている。操作方法についても、アクセルとブレーキ(回生)はグリップをひねるだけ、左右へ曲がる際はハンドルを左右に曲げるだけと、直感的に動かすことができるように設計した。 「みんな何も言わなくてもこうするでしょう。説明や練習がいらないようにしたかったのです」と鐘堂氏。アクセルとブレーキは電気自動車でいうところのワンペダル方式。慣れれば手動ブレーキをほとんど使うことなく、速度を調整できるようにした。もっともよく使う速度域での滑らかな加速・減速にこだわり、慣れない人が急に動かしてしまうことがないよう、特性も調整したという。 e-SNEAKERは、長距離移動を想定していない。最高速度は時速6kmで、1時間乗り続けると6km進むが、市場調査によると一般的な利用シーンは500mから1km程度。まさに移動の最小単位だ。 「ちょっとした買い物や人と話しながら移動するための乗り物です。実際、万博でも一日使ってもバッテリーはなくなりませんでした。行って、遊んで、帰る。こうした乗り物は、本当にちょっとの移動にしか使われないのです」。 長時間の乗車を想定しないからこそ、座面を少し前に倒すなど、快適さを追求した工夫が可能になった。 未来の移動をデザインする 「e-SNEAKER」という名前には、移動の最小単位である「歩く」ことに寄り添った最小のモビリティであるという意味が込められている。同時にそこには世の中のマインドセットを変えたいという願いも含まれている。「身体の不自由な方だけでなく、誰もが気軽に使える最小のモビリティとして、e-SNEAKERという言葉を広く使っていただるようになれば嬉しい」と鐘堂氏。 実際、150台を提供した大阪・関西万博では、多くの人々がe-SNEAKERを「乗りたい」と体験。会場ではe-SNEAKERを描いた絵が1500枚以上も描かれたという。電動車いすから新しい最小単位モビリティへ。ダイハツとe-SNEAKERの挑戦は続く。 ...
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