文と写真●Believe Japan
2021/7/6(火)配信
2018年、2019年と2年連続でミニバンナンバーワンの販売台数を記録した日産セレナは、2020年8月にマイナーチェンジを受け、ライフケアビークル(福祉車両)シリーズも同時に刷新されている。我々は以前2017年モデルを試乗したが、ファミリー層から多くの支持を得ているベースモデルの総合力はそのままに、福祉車両としての完成度の高さに関心した。今回は、刷新された車いす利用の方のためのスロープ車「チェアキャブ スロープタイプ」をあらためてチェックしてみる。2列目と3列目に1台ずつ車いす乗車ができる「車いす2名仕様」だ。
マイナーチェンジでアナウンスされている改良点としては、ベース車と同様に「インテリジェントFCW(前方衝突予測警報)」が全車標準装備となり、全方位運転支援システムがさらに進化していること。さらに以前はオプション設定だった運転支援技術「プロパイロット」がグレードにより標準装備になり、「インテリジェント ルームミラー」もオプション設定のグレードが拡大されている。加えてUSB電源ソケットが1.0Aから「2.4A」に強化されるなど、安全性や快適性が高められている。
セレナは広々とした室内空間をはじめ、大きく開くスライドドアや高さのあるバックドア、フラットなフロアといったアクセスのよさが大きな魅力となっているモデルだが、それは車いすでアクセスするこの「チェアキャブ スロープタイプ」でさらに際立つ。バックドアから車いすのまま車内に乗り込めるよう、手動式のスロープや車いす乗降アシスト装置(電動ウインチ)、車いす固定装置(電動式)が装備される。
この「車いす2名仕様」は、2列目と3列目にそれぞれ車いす(計2名)で乗車できるタイプ。車いす2名乗車の場合は、同乗者3名の計5名、車いす1名乗車の場合は、同乗者6名の計7名が乗車できる。セレナの美点である広い室内は遺憾なく発揮され、いずれの乗員も快適な移動が可能となる。そしてストレッチャーの乗車(同乗者3名の計4名)にも対応するなど、さまざまなシチュエーションに対応するシートアレンジは秀逸だ。
セレナ「チェアキャブ スロープタイプ」にはほかにも用途にあわせたバリエーションが設定されている。2列目に車いす1名乗車が可能で同乗者6名の計7名乗車が可能な「車いす1名セカンド仕様」、3列目に車いす1名乗車と同乗者5名(e-POWER車は4名)の計6名(e-POWER車は5名)乗車が可能な「車いす1名サード仕様」だ。
乗り降りの機能
車高調整スイッチを押して、後輪の車高を下げる。油圧式のスムーズな動作で、車高が80mm下がり、スロープの傾斜角が大幅に緩やかになる。車いすに座る方にとっても、車いすを押す方にとっても快適で安心感がある。
車いすを固定するフックの取り付けや電動ウインチの操作も非常にわかりやすいのは変わらず。電動ウインチもなめらかに作動し、スムーズな車いす乗車ができる。スイッチ類は室内最後尾の左側にまとめられている。
電動ウインチの操作リモコンは、車いすの手押しハンドルを支えながらでも持ちやすいカタチになっていて、ボタンも少なく大きく、押し間違いを防いでいる。
乗員の乗り降りをラクにしてくれるオートステップ便利なオプションだ。ランプも点灯して暗い場所や夜間での乗り降りもサポートしてくれる。
車内の移動がしやすいフラットなフロア。サイドドアからの3列目へのアクセスも良好だ。車いすスペース用フロアマットの色は、これまでグレーであったが、新しくホワイト系の木目調が選べるようになった。室内の雰囲気が明るくなり、オススメだ。
セレナのライフケアビークルは、スロープタイプのほかに、助手席、または2列目左側シートが、車両の外側に電動で回転・昇降することでアクセスが容易な「助手席スライドアップシート/セカンドスライドアップシート」、リモコン操作で昇降する全自動リフターを装備し、車両後部から車いすのまま車内に乗り込める「チェアキャブ リフタータイプ」、さらに助手席側スライドドアから3列目シートへの乗降性を向上させるなど施設や病院などの送迎時に、利用者がスムーズに乗降ができるよう工夫された「送迎タイプ」の全4タイプがあるので、またの機会に紹介したい。
ドライビング
セレナでのドライビングは市街地も高速走行も快適そのもの。視認性に優れ車両感覚が掴みやすいのは相変わらずで、窓が大きく開放感のある室内は、乗員すべてにとって心地よい空間といえる。静粛性も全体的に高く、室内での会話も自然にできるなど、車いす仕様車としての資質の高さは申し分ない。家族全員がドライブを楽しめ、生活がよりアクティブになるはずだ。
そして、前方を走行する車両をフロントカメラでモニターし、アクセルとブレーキを自動制御して適切な車間距離を保つプロパイロットは、今回試乗してもやはり便利だと感心した。車線をモニターし、ステアリングを自動でコントロールし、走行車線の中央を走行するようにサポートしてくれ、ドライバーは疲労感がかなり少なくなる。
操作は「プロパイロットスイッチ」を押してスタンバイ状態にし、「セットスイッチ」で車速設定をするだけという簡単さで、ユーザから高く評価されているのも当然だ。
横に座る乗員(2列目)との自然な会話ができる事はもちろん、運転席との距離が近いことで、ドライバーと車いす乗車の方どちらにも安心感がある。車いすでの乗車は、室内高も高く、また窓も大きいため非常に快適だ。
今回試乗したセレナのチェアキャブ スロープタイプであるが、日産の関連企業でさまざまな特装車やスポーツモデル、カスタムモデルなどを手がけるオーテックジャパンが開発生産を担っている。ハイレベルなエンジニアリングで定評があるメーカーだが、このクルマでも随所に使い手の利便性が考えられていて、非常に快適であった。また、以前試乗した2017年モデルと比べ、全体的により洗練された印象だった。快適な車いす乗車を追求したときに、セレナの「チェアキャブ スロープタイプ」はやはり候補の筆頭に挙げられるモデルである。
【試乗車データ】
セレナ チェアキャブ スロープタイプ 車いす2名仕様 X
車両本体価格(オプション価格抜き):334万3000円(消費税非課税)
【問い合わせ】
日産ライフケアビークル(福祉車両):https://lv.nissan.co.jp
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