文と写真●Believe Japan
高齢者や障がいのある方の快適な生活を提案する総合福祉展「バリアフリー2017」が、今年もインテックス大阪で開催された。23回目を迎えるバリアフリー展は、もはや春の風物詩としてすっかり定着し、今年は4月20日(木)~22日(土)の3日間で、のべ9万1356人という多くのひとが来場した。
医療、福祉にまつわるさまざまなデモンストレーションや展示、講演会などが行われたが、やはり福祉車両に対する注目度は高く、自動車メーカーのブースには、連日多くの来場者が訪れて、スタッフに対して熱心に、展示車両の機能や使い勝手などを確認している姿が見られた。各メーカーも注目のニューモデルを大々的に展示し、新しい機能などを積極にアピールした。
最近では、福祉車両を展示して、乗り降りなど実際の使い勝手を試すことができるショールームが増えている。それらは、バリアフリーはもちろん、それぞれの車両のまわりには大きなスペースがあるため、車いすでも自由に移動できるのでとても快適だ。しかし、福祉車両が数多く一堂に会して展示されるという機会は稀で、メーカーの垣根を越えて、気になるモデルを自由に比較できるということは、多くのユーザーにとってもありがたい。
ここでは、とくに関心の高かったモデルをメーカーごとにピックアップして紹介したい。
【トヨタ】
福祉車両をリードするトヨタのブースでは、コンパクトからミニバンまで、多様なラインアップで、終日賑わいを見せていた。そのなかで目立っていたのが、ハイブリッドモデルの人気の高さだった。会場では、福祉車両の燃費の目安について質問する来場者の姿も多く、その熱気の中心にあったのがプリウスPHEVの助手席回転チルトシート車。標準車の注目度の高さは福祉車両でも変わらず、実際に乗り降りを体験するための列ができるほどの人気ぶりだった。
プリウスPHEV 助手席回転チルトシート車
チルトシートは乗り降りされる方の腰の位置が高いことから、立ち上がりやすく、着座時も膝の角度がゆるやかで負担が少ないのが特徴。また、手動式のためスピーディーな操作が可能という手軽さもアピールしていた。
アーティスト大峰直幸氏によるデザインラッピングが施されたシエンタ。トヨタではおよそ30年前から、障害のあるひとの芸術活動を支援している。
【ホンダ】
8台の福祉車両が展示されたホンダのブースでは、「いつでも、どこでも、だれでも用途に応じて思いどおりに使える」というキャッチフレーズの新型コンパクトミニバン「FREED(フリード)」とホンダの福祉車両として高い人気を誇る「N-BOX」が主役だった。コンパクトながらも広大な室内空間を活かし、車いす利用者も含めて最大6名の乗車を可能とした「FREED+(フリード プラス)」にとりわけ多くの来場者が注目していた。また、自ら運転する喜びにこだわり、「Honda・テックマチックシステム (手動運転補助装置)」と「Honda・フランツシステム(足動運転補助装置)」の展示も行われた。
N-BOX+ 車いす仕様
福祉車両としてだけでなく、普段の買い物や趣味にも活躍できるよう、アルミスロープをラゲッジ下部の床下に収納し、フルフラットな荷台を実現するなど、さまざまな試みがコンパクトなボディに凝縮されている。
FREED+ 車いす仕様
床が低くスロープの角度が緩やかなことも、来場者から好評を博していたFREED+の車いす仕様車。アルミスロープを「前に倒して」収納することができ、荷室のユーティリティが大幅に高められている。
【日産】
ライフケアビークル(LV)6台を出展した日産ブースでは、コンパクトでパワフルと評価の高い「ノート e-POWER」をベースに開発された「ノート 助手席回転シート」が、優れた燃費性能をアピールしていた。しかし来場者の多くから本命として同じく熱い視線を集めていたのがセレナだ。「セカンドスライドアップシート」と「チェアキャブ スロープタイプ 車いす2名仕様」、そして「チェアキャブ リフタータイプ(助手席スライドアップシート付)」の3タイプを展示して存在感を放っていた。エマージェンシーブレーキや高度な運転アシスト機能、アラウンドビューモニターなどといった安全装備のほかに、広い室内を生かした乗り降りのしやすさや快適さ、複数の車いす乗車が可能なこと(車いす 2名仕様)などもポイントとなっていた。
ノート 助手席回転シート
標準車で37.2km/L(JC08モード)という驚異の低燃費を誇るEV(電気自動車)。搭載されるガソリンエンジンは発電用で、動力源は電力となる。
デイズ ルークス 助手席スライドアップシート
セレナ セカンドスライドアップシート
セレナ チェアキャブ リフタータイプ(助手席スライドアップシート付)
NV100 クリッパーリオ チェアキャブ
【ダイハツ】
抜群の使い勝手と維持費の手ごろさから、福祉車両でも高い人気を誇る軽自動車。そのコストパフォーマンスの高さはもはや言うまでもないだろう。「フレンドシップシリーズ」6車種7台を展示したダイハツブースでは、2016年11月にマイナーチェンジして、同社が誇る衝突回避支援システム「スマートアシストⅢ」が搭載された「タントスローパー」と「タントウェルカムシート」がメインとなった。軽自動車ながら、電動ウインチによって簡単に車いすを乗車させることが可能なスローパーの周囲は、実際に乗り降りを試したいというひとたちで熱気を帯びていた。タントスローパーの魅力は、試乗動画でもチェックしてほしい。そして、ウェルカムシート(助手席回転)は、Bピラーがなく大きく開く「ミラクルオープンドア」に加え、助手席が前後にスライドするため、余裕の乗り降りが可能となっている。
タントスローパー
両側スライドドアとBピラーレスのミラクルオープンドアが特徴のタントは、福祉車両としても優等生。スロープが短く、狭いスペースでも乗り降りができ、電動ウインチで女性やお年寄りの方でも簡単に車いすの乗り降りを行うことができるのが特徴だ。
アトレースローパー
幅の広いスロープと電動ウインチでスムーズな乗車を可能にするアトレーのスロープ仕様も人気が高い。タント同様に広々と快適な室内空間が魅力となっている。また、ターボエンジンが生み出す力強い走りも注目度が高い。
【スズキ】
軽自動車の新型「ワゴンR」、「ワゴンRスティングレー」をベースにした新型「ワゴンR 昇降シート車」、「ワゴンRスティングレー 昇降シート車」がスズキブースの目玉だ。直前にモデルチェンジされたばかりで、福祉車両も同じタイミングで発表されたとあって、大きな注目を集めていた。福祉車両でも、ワゴンR FX、ワゴンR FZ、ワゴンR スティングレーという3タイプの外観デザインから選べるようになっている。新型は、単眼カメラと赤外線レーザーレーダーで前方の歩行者や車両を検知して衝突時の被害を軽減する「デュアルセンサーブレーキサポート(DSBS)」をはじめとして、誤発進抑制機能や車線逸脱警報機能、ふらつき警報機能、先行車の発進を知らせる機能、ヘッドアップディスプレイなどを標準装備としている。昇降シート車としては、簡単に操作できる大型ボタンのワイヤレスリモコンに加え、助手席足元の両側にもスイッチを設置し、運転席・助手席のどちら側からでも電動シートスライドや電動リクライニングの操作ができるようになっている。
ワゴンR 昇降シート車
高すぎない全高も含めてジャストサイズな印象で、広く受け入れられそうなニューモデル。見るからに見切りのよさそうなコンパクトボディで、気軽に動ける「足」として活躍してくれそうだ。シートの昇降に連動して背もたれが自動でリクライニングし、スムーズな乗り降りを実現している。
ワゴンRスティングレー 昇降シート車
スポーティなルックスで根強い人気を誇る「ワゴンRスティングレー」。ワゴンR同様、車いすをラゲッジルームに収納することが可能になっている。
日常生活の質を向上させるために重要な役割を担うのが、モビリティ(移動)分野だ。最近では、発売される多くのニューモデルが、当初から福祉車両を設定するなど、いまだかつてない充実ぶりを見せている。今回の「バリアフリー2017」は、各メーカーがニューモデルをこぞって出展し、さらなる盛り上がりを見せるなど、今後に大いなる期待を抱かせるものとなった。これまで「無理だろう」、「面倒そう」と、諦めていた友人や家族、地域との交流や買い物、旅行といった移動を可能にしてくれるであろう福祉車両に多く出会えた。
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