文と写真●Believe Japan
【キーパーソンに訊く】
コヤマドライビングスクールのインタビュー。二人目は、二子玉川校でジョイフルコースの教習も担当するインストラクターの森 早穂(もり さほ)さん。
どのくらいの数の方が「ジョイフルコース」を受けられているのでしょうか。
森さん ジョイフルコースはおかげさまで好評をいただき、受講生は増加し続けております。2016年は二子玉川校で35名、全校で57名の方が受講されました。ただ、半身麻痺の方は、簡単な旋回装置を取り付けるだけで運転できる場合もありまして、ジョイフルコースのスタッフがサポートするというカタチで通常のコースを受けられている方もいらっしゃいます。ですので、障がいを持たれている方としては、さらに多くの方にいらしていただいております。
受講者の数がもっとも多い教習所と言われるコヤマドライビングスクール。
どのような方々が受講生されているのでしょうか。
森さん クルマは移動の自由をもたらしてくれて、活動範囲を劇的に広げてくれます。だれにでも便利なものですが、脳梗塞や交通事故で脊髄を損傷されて、麻痺が残ってしまった方などのなかには、以前クルマを運転していて「免許がないと仕事ができない」といった方も多くいらっしゃいます。その切々とした訴え・熱意には、私も思わず涙が出てしまったこともあります。
昔であれば、脳梗塞になったら、あとはほぼ寝たきりとなってしまっていたのが、医療の進化やリハビリによって、自動車の運転ができるまで回復されるケースが多くなっています。以前運転されていた方は、まずペーパードライバー講習を受けていただき、たとえば右半身麻痺の場合であれば、左足アクセルなどに慣れるための練習をしていただきます。
一般的に障がいのある方ほど、クルマの必要度は高いといえるでしょう。しかし、そこには障壁もあります。たとえば、筋ジストロフィーを発症した方が、仕事をするためにもクルマが必要なのに、クルマを購入するためにはまず仕事をする必要がある、という困難に直面されていました。身体の不自由な方のためになる制度改革が一層進むことを願わずにはいられません。
免許を持っていて障がいを負った場合、運転できるかどうかの判断はどこが行うのですか。
森さん 現在、高次脳機能障がいの方については、病院などと連携して対応させていただいております。すでに運転免許を取得していて、脳の障がいを受けられた方には、「臨時適性検査」を受けていただき、暫定停止を解除し免許継続の容認手続きを行う必要があります。試験場で行われる臨時適性検査には、医師の診断書が必要なのですが、医師が診断の判断を行うための材料である「実車評価」はこちらで行っております。臨時適性検査は運動機能などを確認するためのものです。誤解されやすいのですが、試験場は「免許を取り上げる」立場ではなく、「運転の条件等をつけても、なるべく運転を認める」というスタンスでいます。私どもでは、運転免許証に記載される「条件」に基づいて、教習内容を考えていきます。
はじめて免許を取ろうとするひとは、まずどのようにすればよいのでしょうか。
森さん はじめてクルマを運転しようと思った方は、まず試験場に行き、適性検査を受けていただきます。そうしますと、たとえば「下肢が不自由なら手動装置をつければ免許取ってもいいですよ」ということになります。そして、その「条件」に従い、対応していきます。教習所ではまず、病気や障がいについて確認し、インストラクターやスタッフが「どのような介助を行えばよいか、どのようなことに気をつけるべきか」について話し合いをさせていただきます。小児麻痺や血友病、ミトコンドリア病の方などもいらっしゃいますので、ケースバイケースで対応させていただきます。「どういう姿勢で運転するのがラクなのか、必要な装置は何か」など、ご本人やスタッフ、専門家などと相談しながら慎重に決めさせていただきます。
ステアリングに取り付けられたノブ状のものが「旋回装置(ステアリンググリップ)」。右手だけでハンドル操作が行える。シフトレバーの横にあるのは「手動装置」で、アクセルとブレーキ操作を左手で行える。
旋回装置も手動装置は、右側にも左側にも取り付けられる。写真の装置はフジオート(FUJICON)製だ。
簡単に着脱ができ、標準車やレンタカーにも取り付けられるニコ・ドライブの手動装置「ハンドコントロール」も用意される。
運転免許を取得するにあたって、何らかの援助はあるのでしょうか。
森さん はい。教習費用など運転免許取得にかかる費用または、運転するための装置の費用については、多くの場合で助成金が出ます。お住いの市区町村によって対象条件や助成額が異なりますので、お問い合わせいただきたいです。
ジョイフルコースのインストラクターはおよそ100名以上もいらっしゃるとのことですが、森さんはどのようにしてご担当になったのですか。
森さん ジョイフルコースのインストラクターは、すべて立候補で決まります。本人の意思が尊重されるので、みなモチベーションが高いです。担当になると、特殊装置の扱い方や介助の知識を学び、1年間手話の社内レッスンに毎週参加します。手話についてはさらに自主的に学習するインストラクターも少なくありません。
私は以前、綱島校にフロントスタッフとして勤務していたのですが、そのときに耳の不自由な方が何度かいらっしゃり、そのたびに筆談などで対応させていただいていたのですが、「手話でもできればいいのに」と思っていました。そのことを上司に相談したところ同感していただき、手話教室に通い出したのがはじまりです。その後、ジョイフルコースの企画を立ち上げました。各校のバリアフリー化も進み、聴覚障がいの方だけでなく、肢体不自由の方にも快適に受講していただいている現在の状況を嬉しく思います。
何年にもわたり、障がいのある方と接することで、自分自身が成長させてもらっていることも感じます。さまざまなことを若い世代のインストラクターやスタッフにも引き継いでもらいたいと思っています。
聴覚に障がいがある方のための教習車には、チョウをモチーフにした聴覚障がい者マークとワイドミラーが取り付けられる。
さきほど、受講者の青年と手話で会話されていましたが、彼はすごく明るい笑顔でしたね。ところで、手話の難しさというものはあるのでしょうか。
森さん 当校では、障がいのある方ものびのびと受講していただいています。その姿に励まされ、私たちも「もっとできることはないか」と考えさせられる毎日です。手話に関しては、私なんてまだまだです(笑)。手話の難しさについては、そうですね、日常的に使っていないと忘れてしまうことでしょうか。
明るく親切で、情熱あふれるインストラクターが丁寧に教習してくれる。学びながら楽しめる時間だ。教習は、ジョイフル・コースと英語教習の場合、完全予約制なので、自分に合ったペースで進めていくことができる。
ジョイフルコースのインストラクターをされていて「よかったな」と思われることはありますか。
森さん 本当にたくさんあります。最近も途中で諦めてしまいそうな女性の教習生の方がいたのですが、筋力が本当にない方で、医師からは「なるべく歩かないように」と言われている方でもありました。今後ますますクルマが必要になるのは明らかで、私は「ここで免許が取れなかったら、もう取れないと思う。諦めないで頑張りましょう」と真剣に励まし続けました。その方は無事免許を取れました。うれしかったですね。また、他のインストラクターが言われたのですが、「ハンデをハンデと思わせない指導、先生の強い思いを感じて頑張れました」と感謝のお言葉もありました。とてもうれしかったです。
「関わったすべての方に免許を取っていただきたい」と熱く語るインストラクターの森さん。
健常者の方と比べて、免許の重み、意義はとても大きいと感じさせられますね。
森さん たしかにそうですね。少し前に、大学に通うために、どうしても自分で運転する必要があるという女性がいらしたのですが、免許を取れなければ、進学を断念していたとおっしゃっていました。運転できる、ということが、ときにひとの日常や人生すらも変えてしまうものであると思います。また、免許を取れた、ということによる「自信」は、その後の生活にも精神的にポジティブな影響を及ぼすはずだと思います。
広々とした二子玉川校の校舎は、モダンなデザインが印象的な快適空間。高度にバリアフリー化された校内は、車いすの方のためのスペースもゆったりとして、ストレスが少なくなるよう気配りがなされている。
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