文●Believe Japan 写真●Believe Japan、日産自動車
ファミリー層から絶大な人気を誇る日産のミニバン「セレナ」が、2016年の8月にフルモデルチェンジを行い、さまざまな新機能を搭載して話題を呼んでいる。
そして、ライフケアビークル(福祉車両)シリーズにチェアキャブ(車いす仕様車)「スロープタイプ」が新たに設定されたのが2017年の2月末。今回我々は、実際の使い勝手に加え、市街地走行と高速走行を織り交ぜた長距離移動を試し、そのポテンシャルを探ってみることにした。
チェックしたのは「セレナ チェアキャブ スロープタイプ 車いす1名セカンド仕様」。2列目に車いすで乗車するタイプだ。新型セレナは運転席から3列目まで、すべてのひとが楽しく快適に移動できることを目標に開発されたという。標準車の資質は、福祉車両にもダイレクトに反映されるから楽しみだ。ちなみにスロープタイプには、そのほか「車いす1名サード仕様(3列目)」、「車いす2名仕様(2、3列目)」、そして専用シートレイアウトや手すり、オートステップを装備した施設送迎向けの「車いす1名送迎仕様(3列目)」の計4タイプが設定されている。
【使い勝手】
まず、車いすで乗り込んでみて、実際の使い勝手を確かめてみた。後輪が油圧式車高調整機構になっていて、ワンタッチで速やかに車高を下げ、スロープの傾斜をゆるやかにすることができる。油圧の車高調整と電動ウインチはなめらかに作動し、車いす固定フックの取り付けや電動ウインチの操作も非常にシンプル。おかげでスムーズな車いす乗車ができた。
開発生産を担当しているのは、日産の関連企業で特装車を手がける「オーテックジャパン」。これまでさまざまなスポーツモデルやカスタムモデルなどを手がけ、その開発力とエンジニアリングで高く評価されているメーカーである。
車いすの乗り降りに関する操作系は、リヤゲートを開けた左側にまとめて配置されている。車高調整のスイッチ(写真右上)、電動ウインチベルトの引き出しや固定、解除のスイッチ(写真右下)は、簡単に操作できる。また、電動ウインチの操作リモコン(写真左)は、介助するひとが車いすの手押しハンドルを支えながらでも持ちやすい形状になっている。ボタンを大きく、また数も少なくすることで押し間違いを防止している。
3列目シートの頭上にあたる部分の天井部は、中央部分が上方向にくぼんでいる。これは、乗り降り時に頭をぶつかりにくくする配慮である。
さらに、フラットなフロアと天井の高いセレナは、車いすで乗車する方、介助する方の双方に良好なアクセスをもたらす。これまでスロープ仕様車では、電動ウインチの機械装置が床下に設置され、2列目のフロアが一部盛り上がってしまうことが多かった。ところがセレナでは、機械装置が1列目の床下にコンパクトに収められ、フラットなフロアを実現。斜面や段差がないため、小さなキャスタ(前輪)が前端についている車いすなどでも、つかえてしまうことがなく、理想的な位置にセッティングできる。
2列目の右側座席も優れものだ。後方に倒すと背もたれが3列目の座面とつながって、フラットな長椅子のような形状になる。これは停車しているときに、車いすに乗る方が身体を伸ばして休むことができるスペースとなるのはもちろん、介助するひとがさまざまなものを置いたりして使うこともできる。何気ないシート展開ではあるが、使いやすさを重視した作りのよさが感じられた。
ファミリーから人気のセレナだけあって、福祉車両は身体の不自由なお子さんたちへの気配りであふれている。たとえば、車いすの固定位置を「より中央」にすることで、前方の視界が飛躍的に改善されたり、運転席や助手席との距離が近くなることで、お子さんが大きな安心感を得られるように考えられている。それはもちろん、大人や高齢の方、さらには介助をするご家族にとっても大きな安心感につながるだろう。
畳まれた3列目シートが窓を覆い、視界を遮られてしまうことの多いミニバンだが、セレナはこのとおり。室内は明るく開放的で、ドライバーからの安全確認にも役立つ。
スロープ幅(内寸)は750mmと大きく、車いすでの乗り降りもスムーズ。200kgの荷重にも耐えられる。
【快適性】
室内スペースが広く、開口部も大きなミニバンは、車いすでの乗り降りも快適に行える。しかし、もともとの乗車位置が高いモデルが多く、車いすではさらに着座位置も高くなりがちのため、コーナリング時には上体が揺さぶられたり、ブレーキングで前のめりになったりと、長時間のドライブにはなかなか難しい点もある。
今回の試乗でも、そういう場面が若干あったのは仕方がないところだろう。それでも、セレナ チェアキャブ スロープタイプは、このジャンルのモデルとしては、ドライビングの快適性やいくつもの特筆すべき優位性を備えている。
そのひとつは静寂性。ロードノイズが少なく、フラットな道では揺れも気にならず、乗り心地もマイルド。車いす乗車したスタッフと運転したスタッフは、高速道路を走行している間も自然に会話ができた。窓面積が大きく開放感のある広々とした室内スペースは、前席、後席ともに明るい雰囲気だ。
さて、新型セレナといえば、大きな注目を集めているのが運転支援技術「プロパイロット」。インテリジェント エマージェンシーブレーキや踏み間違い衝突防止アシスト、車線逸脱防止支援システムなどのセーフティ機能が連動して、高速道路での渋滞走行や巡航走行をアシストしてくれる技術だが、クルマがドライバーに代わってアクセルやブレーキ、ステアリング操作を自動で制御してくれる。実際に試してみたが、非常によく機能していて、高速道路を走行して通常感じるストレスが大幅に減少した印象だ。
プロパイロットは、前方を走行する車両をフロントカメラでモニターし、アクセルとブレーキを自動制御して適切な車間距離を保つ。加えて車線をモニターし、ステアリングを自動でコントロールすることで、走行車線の中央を走行するようにサポートしてくれるというもの。音声や表示、ステアリングを通しての感触によって、ドライバーは作動状況を自然に認識できるようになっている。
プロパイロットの操作はとても簡単。「プロパイロットスイッチ」を押してスタンバイ状態にして、「セットスイッチ」で車速を設定するだけだ。
ドライバーはつねに運転に集中していなければならないが、プロパイロット作動時での走行は非常に安定している。今回は長めの試乗であったが、前方を走行する車両、さまざまな種類の走行車線などを的確に把握していることが運転していて伝わった。このような機能があると、介助するひとは大きな安心感を持って運転することができるだろう。
セレナのスムーズな乗降り、快適な走りぶりは動画でも確認してください!
また、このセレナは、周囲の安全確認のしやすさも高く評価したい。とくに「インテリジェント アラウンドビューモニター」は、周囲360度の状況をまるで上空から見下ろすかのように映し出し、パーキング時や車いす乗降時のためのスペース確認などにも大いに役立つ。高めのドライバー視点と見切りのよいボディ形状によって視界も良好で、狭い路地の走行などもストレスなく走行できる。
今回の試乗車には装備されていなかったが、「インテリジェント ルームミラー」 も注目のアイテムだ。背の高い方が車いす乗車すると、バックミラーでの後方確認は困難になる。しかし、車両後方に取り付けられたカメラの視界を映すこのミラーがあれば、遮られることなくつねに後方の安全確認が可能となる。
今回、セレナ チェアキャブ「スロープタイプ」の試乗で感じられたのは、作り手の思い。標準車そのものが、ここに物を置きたいなぁと思う場所に便利な小物スペースなどがレイアウトされていたが、福祉車両ではさらに、使うひとの快適さを追求したモデルとなっている。フルモデルチェンジでさまざまな進化を遂げたセレナだが、それは福祉車両のユーザーも存分に感じることができるはずだ。
2016年度(2016年4月~2017年3月)における日産の福祉車両の販売台数はおよそ5500台だったが、そのなかで車いす移動する仕様の車両は、およそ4000台に上った。これまでは主に「NV350キャラバン」が販売されていたが、この「セレナ」の登場で、販売はさらに伸びることだろう。
価格:289万5000円~331万8000円(セレナ チェアキャブ全グレード)
【試乗車データ】
セレナ チェアキャブ スロープタイプ 車いす1名セカンド仕様
◎車両本体価格(オプション価格抜き):324万8000円(消費税非課税)
・LEDヘッドランプ(ロービーム、オートレベライザー付、プロジェクタータイプ、シグネチャーLEDポジションランプ付):6万円
・日産オリジナルナビ取り付けパッケージ:2万5000円
・セーフティパックB:22万5000円
・特別塗装色:7万円
・ハンズフリーオートスライドドア(両側):12万円
・専用フロアカーペット:3万6800円(取付け費込み)
・日産オリジナルナビゲーション(型式:MM516D-L)+ETC2.0ユニット:31万185円(取付け費込み)
・車いすスペース専用フロアマット:3万3800円(取付け費込み)
・特殊車いす固定ベルト 後側固定用(セカンド用):1万7500円(取付け費込み)
・特殊車いす固定ベルト Y字形状 後側固定用:1万2000円(取付け費込み)
◎オプション価格合計:91万285円
◎車両本体価格(オプション価格含む):415万8285円(消費税非課税)
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