文●Believe Japan 写真●Believe Japan、トヨタ自動車
もともと定評があった座面と背もたれがチルトダウンする車いす、トヨタの「ウェルチェア」に電動化されたものが登場し、 ヴォクシー、ノア、エスクァイアのウェルキャブにも新しい車いす仕様車「タイプⅢ」が登場した。注目なのは、この電動ウェルチェアと新開発の「ワンタッチ固定装置」とを合わせて使用することで、車いすによるスロープでの乗り降りが大幅にしやすくなったことだ。
この新しい車いすは、ヴォクシー、ノア、エスクァイアのマイナーチェンジに合わせたもので、東京お台場の「メガウェブ(MEGA WEB)」で、電動「サイドリフトアップチルトシート」仕様車といっしょにお披露目された。既存の手動タイプのウェルチェアを載せるときは、スロープを出した後、引き込み用のベルトを二本引き出して本体に固定、電動ウインチで車内に引き上げるという手順(全11手順)が必要だった。もともとベルトもウインチもよく考えられた角度でスムーズに作動し、安定感の高い機能ではあった。しかし、11手順をすべてを行うのに時間がかかり、たとえばボランティアのスタッフの方が初見で作業を行う際に、手順を覚えるのに苦労するような側面もあった。
車いすの電動化とワンタッチ固定が乗り降りを一変
トヨタ ウェルキャブの製品企画主査である中川茂氏は、「ウェルチェアを電動化することにより自走乗車が可能になり、ベルトもウインチも不要になりました。ベルトを緩める、車いすに装着する、巻き上げる、固定するなどの手間がなくなり、乗り降りが11手順から1手順へと、大幅にシンプルになりました」と、新しいスロープ車の魅力を語った。
実際に介助する方のおよそ7割が、60歳以上の女性という現実を前に、「これまでよりもずっとシンプルで手軽な車いすの乗り降りを目指しました」という中川主査。
介助者が後ろについてそのまま自走でスロープを登り、登り切ったところで車いす下部にあるバーが車体の室内床面にある「ワンタッチ固定装置」にガチャっとはまり、それで終わり。すべてがひとつの手順で完結するという究極の簡単さなのだ。もちろん搭載する時間も大幅に短縮されている。
フロアに描かれた黄色のラインをガイドに電動車いすを移動させる(左上)。新開発の電動車いすの下部には特製のバーが取り付けてあり、これを受けて自動的にロックするフックが車両のフロアに備えられる(右上)。乗り降りは、介助者が電動車いすを操作して行う(左下)。「カチッ」とワンタッチでしっかりと固定され、解除もワンタッチ(右下)。
スロープ上の動きも、ACサーボモーターと呼ばれるモーターが低速で動くため安心感が高く、不安を感じさせない。介助者は車いすの左後輪を「床面の黄色いステッチのガイド」に沿って走らせることだけを考えて進めば、ウェルチェアは「ワンタッチ固定装置」にしっかりと装着される。非常に簡単だ。外すときには床面のロックを足で外し、バックさせるボタンを押して低速でスロープを下りていくという逆の手順を行うだけだ。
電動車いすとなっても、スロープの角度や機能は既存のものとほとんど変わらない。エアサスが後輪を下げ、丁度よい高さと角度をつくる。車両本体の開発時から福祉車両化を折り込んでいることは、こういう良い点に現れてくる。180センチある大柄のひとが乗っても頭上にまだ余裕がある。乗り込んだ後に3列目を戻して利用できるという驚きのスペースユーティリティもそのまま受け継がれている。
電動ウェルチェアは、単体としてみても本格的な電動車いすである。単に既存の手動型にモーターがついただけではなく、最大16キロの走行が可能な大型バッテリーを積み、ジョイスティックで操作性を上げ、電子音のホーンまで装着されている。スピードの調整も可能で、最高速度も十分だ。「座面と背もたれがチルトする機能」ももちろん受け継がれている。これは、チルトすることで体重が背面と座面に分散されるため乗車中の姿勢がラクになるというもの。さらに、目線が下がって移動中景色が遠くまで見られるようになり、同乗者とも目線が合って会話しやすくなるという大きな利点もある。それにより、「載せられている感」が大きく軽減されるのだ。
安全ベルトは、これまでのように車いすのパイプを通すのではなく、座っている方の上から直接締めるだけでよくなった。細かな点だが、使い勝手は大幅に向上している。
新しく座面と背面左右につけられたパッドにも注目だ。これにより左右のホールド性がさらに高まった。既存の手動のウェルチェアもチルトする機能を使って重心を低くすることができ、ファブリックの生地の摩擦力があって左右のホールド性は通常の車いすよりずっと高かったが、今回左右のパッドがついたことにより、より乗車時の左右の動きに強くなっている。また、体の痛みも軽減される。足が弱った方は、足を床面につけて踏ん張る動作を取りづらいため、自動車に横方向の動きがかかると、体を座面の上に保つのが難しいことがある。車載される車いすそのものが左右のホールド性を高めるのは、実用上大きな意味があるのだ。
車いす乗車をもっと簡単で快適にするべく開発された今回の車いす仕様車「タイプⅢ」。大幅に使い勝手が向上し、細部の快適性も上がっていた。利用用途や対象ユーザーがさらに広がることが期待される画期的な製品といえるだろう。
【価格】
トヨタ ヴォクシー 車いす仕様車 タイプⅢ 355万4000円
トヨタ ノア 車いす仕様車 タイプⅢ 355万4000円
トヨタ エスクァイア 車いす仕様車 タイプⅢ 374万7000円
※消費税は非課税。
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