文●Believe Japan 写真●BoCo、Believe Japan
今日、多くの人がスマートフォンなどで音楽や映像を視聴している。スマートフォンは、場所を問わず移動時間や空いた時間を楽しい時間に変えてくれるとても便利なものだ。だが、最近懸念されているのがその危険性。
イヤホンやヘッドホンによって耳を塞がれると、周囲の音が聞こえなくなり、歩行者同士や自転車やバイクなどと接触する危険が高くなっしまうのである。
そして、この問題を解決する方法として注目を集めているのが、「骨伝導」。今回の骨伝導の技術で開発されたイヤホン「イヤーズオープン(earsopen®)」は、耳を塞ぐことなく音楽を楽しむことができるものだ。その魅力、開発のきっかけについてメーカーであるBoCoの代表取締役(CEO)の 謝 端明(しゃ はたあき)氏にお話を伺った。
骨伝導で音を伝えることに着目し、開発を始めたきっかけは、何でしょうか?
じつは私、骨伝導という物の存在をずっと知りませんでした。およそ8年前、 大阪にある骨伝導技術を開発する「ゴールデンダンス」という会社の代表である中谷さんと知り合ったときに、頭の上にデバイスをつけて音楽を聴かせてもらいました。その体験は衝撃的でした。ふつう「音」というのは、空気を伝い鼓膜を振動させ、聴覚神経に伝わります。ところが、この「骨伝導」では、音の振動が頭蓋骨に伝わって直接聴覚神経に届くのです。「何だこれは!? どうしてこんなことができるのか!」と驚きました。それまで音楽を聞くということは、イヤホンやヘッドホン、スピーカーで耳から聴くしかないと思っていましたので、「耳を使わないで音を聴く」ということに心を動かされたわけです。イヤホンは耳に入れた瞬間から、その人は世の中から隔離されたも同然、周囲からの音による情報が遮断されてしまいますよね。スピーカーで聴く場合は、その場から動けなくなり、移動しながら聴く自由はなくなります。私は以前からそのことにジレンマを感じていました。ですので、「耳を解放する」という事はとても素晴らしく感じられました。音楽を聴きながら、塞がれていない耳では周囲の音や人の話し声などの情報を得ることができるのです。
その後、骨伝導について色々と調べました。かなり以前から、戦車に乗る兵士など、骨伝導は大きな騒音がある場所などで使用されていたのですが、その技術の進化はある時点でストップしていました。どれもが重く大きなデバイスを必要とし、一般的には使い物にならないと言うレッテルを貼られていたのです。ところが中谷さんが独自に発明したダイナミック振動子は世界最小(2018年3月現在BoCo調べ)、わずか10mmというサイズです。彼の技術はオンリーワンのものだと確信し、パートナーシップを組ませてもらい、共同でBoCoを設立。ソニー(SONY)でオーディオ機器を設計していたエンジニアなども加わり、製品開発がスタートしました。そして、耳を塞ぐことなく「骨」を通じて「音」を届ける「イヤーズオープン(earsopen®)」というコンセプトに辿り着いて、製品を開発しました。
骨伝導イヤホン「イヤーズオープン」の特徴について教えていただけますか?
イヤーズオープンの最大の特徴は「耳を塞がなくても聴こえる」ことです。さまざまなシーンで便利さや安心を感じられます。たとえばジョギングやウォーキング中に音楽を大きな音量で聴いていると、自動車やバイクなどが接近してきてもわからず、非常に危険な場合があります。ですが、耳を塞がない骨伝導イヤホンであれば、音楽を楽しみながら周囲の音を聞くことができるので、安全なジョギングやウォーキングが行えます。また、鼓膜を使わない骨伝導であれば、難聴の方や耳が不自由な方でも音を聞ける可能性があることも重要です。聞こえに不安のある方は、それによって自信を取り戻せるかもしれないのです。また、それまでまったく音を聞くことができなかったと言う人が、初めて音を感じられるかもしれません。
そのほかに優れていることは、何よりも世界最小デバイスによる「軽さ」でしょう。長時間使用していても疲れません。そして独自の音声制御技術によって、極めて高い音質を実現していることです。それに加えて、デバイスを生産する機械も自社開発し、すべてメイドインジャパンとするなど、ハイクオリティを追求しています。
また、近年問題となっている若年層の難聴防止にも役立ちます。長時間イヤホンやヘッドホンで大きなボリュームで音楽を聴いたりすると、鼓膜や聴覚器官が疲弊し「難聴」につながる危険性があると、WHO(世界保健機構)は、2015年春に「若者の難聴リスク」について警鐘を鳴らしているといいます。潜在的な難聴者の数はなんと11億人(12〜35才を対象に調査した結果)!
聴覚補助としての役割を重視されていますが、どうしてでしょうか?
なぜ補聴器があまり一般的にならないかというと、快適ではないからだと思います。すでに機能が低下している鼓膜を、増幅した外からの音でさらに刺激するのですから、無理もないことでしょう。
そして、もうひとつは見た目の問題が大きいと思います。たとえば私が補聴器を耳に入れているとします。すると周りの人は、「彼は耳が不自由なのだ」と考え、私を障がい者扱いするでしょう。ところが、私は眼鏡をかけていますが、それで障がい者扱いされることはありません。視覚を補助するメガネは、ファッションアイテムとしても捉えられています。聴覚補助のイヤホンもそうであってほしいという願いが、このデザインには込められています。
我々がイヤーズオープンでとくにこだわったのは、健聴者が音楽を楽しむためのイヤホンと、難聴の方や聞こえに不安のある方のイヤホンが、同じスタイルとなることです。イヤーズオープンは健聴者の「音楽用」と難聴の方、聞こえに不安のある方の「会話用」、「音楽+会話用」に大きく分けられるのですが、音楽用のBluetoothタイプと会話用タイプが外見で違いがないということです。とくに若い女性などでは、補聴器を着用することに抵抗があるとの声が聞かれます。補聴器は「私は耳が不自由です」とアピールするようなもので、普通に音楽を楽しんでいるのと変わらないスタイルのイヤーズオープンは、「人目を気にせず気楽に使える」という声もいただいております。私はイヤーズオープンで、使う方のライフスタイルが変わると信じています。毎日の気持ちが明るくなるはずなのです。それは社会的にもポジティブな影響を及ぼすと思います。
左は音楽用のイヤーズオープン。中央は会話用。右も会話用で、骨伝導デバイスを耳の中に入れることで聞こえの改善を図っている。どれも48gと軽量で、共通のデザインとなっている。
本体が同じで、会話機能を持つタイプには両方の先端に集音マイクが付き、臨場感のあるステレオサウンドを楽しむことができる。また、左右それぞれに音量を調整することが可能な付属品も発売する予定なので、片側のみが聴こえにくくなることが多い突発性難聴にも対応するという。
ユーザーやモニターの方の反応はいかがですか?
イヤーズオープンは、使用される方だけでなく、ご家族や周囲の方たちにも大変好評です。聞こえに不安がある方は、テレビを観るときに、どうしても音量を大きくしがちですが、これは一緒に観ている方にとっても、ある種の「苦痛」となります。そして、徐々に別々の部屋でテレビを観るようになり、家庭でのコミュニケーションも希薄になっていくこともあります。イヤーズオープンであれば、みんなが普通の音量で楽しむことができます。また、「いままでは、黙って食卓に座っていた祖父が、イヤーズオープンを装着することで、家族の会話に積極的に参加するようになりました」という嬉しい声も頂いております。
今後の抱負などはございますか?
「耳」というものはまだまだ研究の余地があり、今後もデバイスなどのさらなる進化が見込まれます。我々は、ろう学校の生徒さんにイヤーズオープンを提供するなど、積極的なモニタリング活動なども行い、ひとりでも多くのひとが聞こえるため、音質向上のために利用者の声をフィードバックしていきます。
すべてのひとに快適なリスニング・スタイルを提案し、生活クオリティ向上のお役に立てるよう頑張っていきます。そして究極的には、「人」と「音」をより良い関係に導いていきたいです。これからも「Your Happiness is Our Business」モットーに、今後も世界初、世界最高レベルの製品を創り続けたいと思っています。
独自開発の骨伝導技術を活用したコミュニケーション・デバイスメーカーであると同時に、そのデバイスを活用した新しいコミュニケーション・プロダクツの開発、製造を担うメーカーであるBoCo株式会社。代表の謝さんは、骨伝導技術を活用した、さらなる技術の発展を目指し、多くの人々を幸福にしていきたいと語る。
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