文と写真●Believe Japan
2020/5/22(金)配信
これまで海外では欧州、北米を取材してきた編集部だが、世界の福祉車両を見渡すと、いかに日本の福祉車両が充実しているかがわかる。このサイトの福祉車両検索でも新車ラインアップが探せるが、車種だけでも50種類以上。車種毎の異なる仕様も数えると、その数は約90種類にもおよぶ。もっとも、だからといって海外では福祉車両が消極的というわけではない。欧州も北米も所有しているクルマをカスタムメイドするという市場背景があるからだ。
しかし、これほど充実している日本の福祉車両ではあるが、重量のある電動車いすに対応する車種となると、残念ながらその数は非常にかぎられてしまうのが現状だ。
今回クローズアップするのは、そんな重量級の車いすもスマートに載せられる、新型ロンドンタクシー TX。
ロンドンタクシーといえば、1908年~という長い歴史を持つシックなブラックキャブで、来訪者に成熟した大人の英国を視覚で伝えてくる英国名物。
現在は、ボルボなども傘下に収めるGeelyホールディングスのLEVC(ロンドン EV カンパニー)となっており、そのLEVC社が新たに製造したのが、この「ロンドンタクシー TX」となる。このモデルの最大の特徴は、レンジエクステンダー付きEVであること。発電用の1.5Lのボルボ製3気筒エンジンがリチウムイオン電池に充電(急速充電にも対応)し後輪を駆動する。
導入のきっかけには、どういう背景があったのだろうか。自身も車いす生活の経験があるという、LEVCジャパン 経営企画室長の渋谷剛史さんに伺った。
「車いす生活のなかで痛感したのは、とにかくちょっとした移動が大変なこと。いまでこそ各地でバリアフリー化の声が高まり、事実進んではいますが、それでもまったく足りていないのが現状でしょう。となると、やはりクルマでの移動は必須。ところが、日本では最低限の移動はできても、心が満たされるようなクルマは見当たらない。私自身30年以上自動車販売に携わってきたのですが、この新型ロンドンタクシーTXなら、車いすでも気持ちよく移動ができ、利用するひとたちにも多くのメリットがあると確信しました」
ロンドンタクシーは、先代モデルでもユニバーサルデザインが採用されていて、新型のTXではそれらが進化している。彼らが考えるユニバーサルデザインのポイントは以下のとおりだ。
●大きな開口部のドアと、ユニークな収納ステップ(操作が簡単)
●フロア下に格納された機能的な車いすスロープ(耐荷重250kg)
●移動しやすいフラットな床面(車内で車いすの回転可)
●聴覚障がい・視覚障がいの方にも配慮した室内空間(色や手すり等)
詳細は写真のキャプションでも説明するが、これらの機能はベビーカーをそのまま載せられるメリットもあり、なによりユーザーがさっと乗り込める高いアクセス性が魅力。
早速、撮影を兼ねて試乗(2月上旬実施)させてもらった。運転席は見切りがよく、機能性に優れた環境だ。満充電の状態からスタートさせると、スルスル~と上品に走り出した。さすがに車重が2.3トンあるため、ドッカン加速こそしないが、いったん速度が高まるとしっとり泳ぐように走らせることができる。視界がよくボディの四隅がしっかり見えるため、思いのほか車体の大きさが気にならなかったのは意外だった。最小回転半径が4.01mということもあり、よほど狭い道に入っていかないかぎりこの大きさのネガを感じることもなさそうだ。ちなみに、ピュアEVモードでは130km近く走れる。
続いて、後席にも試乗した。こちらは空間の広さもあって、クルマというより部屋が移動していくような感覚。どのシートに腰をかけても、ゆったりとした気分が味わえる。ガラスルーフが標準装着されていて、空が見えるところも美点だ。乗員は、ドライバーを除いて、車いす(手動式)+4名が可能。準備した車いすに乗った状態で試乗もしたが、この報告はあらためて実際の車いすユーザーと一緒に行えればと思う。
すでにロンドンでは2500台が運行しているという新型ロンドンタクシーTXは、最新技術満載のプロ仕様ということで、価格も1120万円(税込み)と高価だが、日本ではどのような販売戦略を抱いているのだろうか?
「今回はタクシーでの紹介となりますが、ほかに商用バンもラインアップされています。現在の輸出国は世界13カ国。日本では、たとえば東京のプレミアムタクシー市場は5000台と言われていますから、まずはそこをターゲットにしています。そして、今後は病院や福祉施設など、より多くの方に実車をみていただきたいと思っています。価格はたしかに高価ですが、ライバルとなるのは既存のタクシー車両ではなく、むしろマイクロバスなどの多人数乗車モデルだと考えています。また、たとえば東京都でタクシー登録する場合は、各種補助金が適用されるので、756万円となります」(渋谷氏)
たしかにこのプレミアムな移動空間は、心の満足も得られそうだ。
タクシーや商用車ユースを想定し、通常より耐久性の向上に特化した車両開発が行われている。また、アルミ接着構造で、スチールボディとの比較では30%の軽量化と高い衝撃吸収性能を実現している。
ステアリングや各種スイッチは、同じグループであるボルボ車と共用。ドライバー側にラウンドしたセンターのタッチパネルは、抜群の操作性だ。また、助手席スペースにはシートはなく、車いすや乗客の荷物などを置くスペースとなっている。
運転席と後席はパーテーションで仕切られているため、プライバシーにも優れる。会話するためにはドアにあるマイクのスイッチを押す。後席空間は、常時座れるシートが3席と、折り畳み式のシート3席。折り畳み式のシートにはスプリングが仕込まれていて、席を立つと自動で格納される。
フロアに収納されたスロープは、幅が714mm、長さが1280mm、スロープ角度は15度となっている。素早く展開できるのが美点で、展開時の車両からの距離も1061mmと、省スペースとなっている。また、ドアに近い折り畳み式シートは、写真のように回転でき、足腰に不安がある方でもスムーズに車両に乗ることができる。
車いすで乗車しても、同乗者と同じ目線でドライブが楽しめる。空間的にも余裕があり、リラックスできる。
トランクルームには、スペアタイヤ、充電用ケーブルなどが入れられている。
このタイヤの切れ角を見れば、最小回転半径が4.01mを実現できたのがわかる。
すっきりと整備性のよさそうなエンジンルーム。最高速度は128km/h、0-100km/h加速は13.2秒となっている。また、走行距離はバッテリーのみで130km、トータルでは600kmにおよぶ(欧州WLTP参考値)。
急速充電にも、もちろん対応。満充電には1時間未満かかる。
■新型ロンドンタクシーTX 一般仕様 主要諸元
全長:4855mm
全幅:2036mm(ミラー格納時 1874mm)
全高:1880mm
ホイールベース:2985mm
トレッド前/後:1620mm/1625mm
オーバーハング前/後:940mm/930mm
最小回転半径:4012mm
車両重量:2330kg
レンジエクステンダーエンジン:1.5L 3気筒(67kW・160Nm)
モーターピーク出力:120kW 400V(機械的出力)
モーターピークトルク:255Nm
車両価格:1120万円(税込み)
補助金適用後価格:756万円(税込み、東京都・緑ナンバー登録の参考値)
・地域交通のグリーン化に向けた次世代自動車の普及促進事業(国土交通省):224万円
・次世代タクシーの普及促進事業(東京都:電気自動車タクシー):100万円
・次世代タクシーの普及促進事業(東京都:環境に優しいUDタクシー):40万円
問い合わせ:LEVCジャパン TEL:050-6875-6801 URL:https://levc.jp
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