文●石井昌道 写真●Believe Japan
2022/3/11(金)配信
ホンダは手動運転補助装置付き自動車のテックマチックシステムを1976年、足動運転補助装置付き自動車のフランツシステムを1982年に発売を開始している。手動運転補助装置付き自動車は他メーカーのモデルも含めて複数回の試乗経験があり、いまではスムーズに運転できるようになっているが、昨秋に初めて試乗したフランツシステムは少し戸惑った。右足によるアクセルとブレーキのペダル操作は何の問題もないものの、ウインカーなどのスイッチ操作も兼任しなくてはならない。また、左足によるハンドル操作は、普段はあまり使わない動きだったこともあって慣れるのに時間がかかった。
今回は2回目の試乗。操作方法はわかっているうえ、左足の動かし方もイメージできていたので、落ち着いて走りだすことができた。
まず、乗り込むには右足のつま先をドアノブに引っかけてドアを開けながら、身体を入れ込めるようにある程度は手前に引いていかなければならないのだが、これがまた難しい。片足立ちで不安定になってしまう。ただし、フランツシステムを相棒にしようと本気で挑む人のほとんどは、こういった操作には慣れていて難なくこなしてしまうそうだ。
試乗車はオプションのパッシブシートベルトが装備されているので、シートに座れば自動的にシートベルトが装着できる。
無事にシートに収まった後に走り出すには、まずシステム始動およびシフトレバーを操作するために、ブレーキペダルを踏み続けた状態にする必要がある。そのために、ブレーキペダル上方にロック用ボタンがあり、これを押しながらペダルを踏み込めばロック状態に。そして右足でPOWERボタンを押し込んでシステムが始動。そのまま、足用シフトペダルでDレンジを選択し、ブレーキ・ロックを解除すれば走り出せる。
現行フィットは電子制御パーキングブレーキが採用されているので、ブレーキ・ロックを解除しても停止したままだが、アクセル・ペダルを操作することで自動解除され、クリープで動きだす。アクセルとブレーキの操作は、ノーマル車両と同様なので何も問題ない。
ハンドル操作は左足で、自転車のペダルのように縦回転させて行う。下に押し込むときは力が入りやすいが、上に引き上げるときはちょっとだけやりづらさがある。普段はあまり使わない筋肉を動かしているからだが、これは慣れの問題であり、2回目の試乗で勝手はわかっていたので、今回は戸惑いがほとんどなかった。
前回は、普段は手でハンドル操作している自分にとって、足による操作は大雑把になってしまうのではないかという心配があって慎重になりすぎ、それが操作遅れを誘発していた。また、四つ角を曲がるときやUターンのときなど、ハンドル操作量が多いときにも慎重だったので操作が遅かったが、今回は緩いカーブでは繊細に、操作量が多いときは大胆にとメリハリをつけるようにしていったら、上手に動かせるようになり、クルマとの一体感がでてきた。操るのが楽しいと感じられるようになったのだ。
運転しながら足用コンビネーションスイッチを操作することもマスターしなくてはならない。頻繁に使うウインカーは、慣れてくれば左はつま先でブレーキペダルを踏みながらかかとでポンッと押し込めるので楽に操作できる。MTでスポーツ走行するときのヒール&トーと同じ要領だ。ところが右は距離が離れているのでブレーキペダルを踏みながらの操作は無理。道路交通法では右左折や転回する地点の30メートル手前でウインカーを点滅させることになっているので、右折時にはアクセルペダルもブレーキペダルも操作しない空走状態で右足でウインカースイッチを押し込む必要が出てくる。余裕があれば可能だが、そうではないシチュエーションも出てくる。そんなときは交差点で一時停止してブレーキ・ロックを使い、ウインカーを操作、ブレーキ・ロック解除して走りだすことになる。自車を安全に走らせるには仕方ない緊急回避だろう。手順はちょっと煩わしく、最初のうちは頭で考えながらゆっくりと操作していたが、慣れてくるとほぼ無意識で素早く操作できるようになった。
足用コンビネーションスイッチは、個々のドライバーの好みや操作のしやすさに合わせて9パターンが用意されており、購入時に選択できるようになっている。
2回目の試乗にして、早くも慣れてきてフランツシステムが頼もしい相棒になってきた。ノーマルの市販車をベースにモディファイしたシステムなので、すべてが完璧というわけではないが、自らの意志で移動の自由を獲得したい、運転の喜びを味わいたいという思いが強ければ、問題なく使いこなせるだろう。安全運転を支援するHonda SENSINGも性能が向上してきているので心強い(過信は禁物だが)。運転操作を覚えるのに多少のハードルはあるが、マスターしたときの喜び、得られる価値は大きいはずだ。
自動車ジャーナリスト 石井昌道
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動運転にも参加する自動車ジャーナリスト。幅広い視野と知見で的確な評論を行う。
※撮影車両には、一部オプション装備が含まれています。
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