文と写真●Believe Japan
2022/11/23(水)配信
近年、朝の日常風景ともいえるのが、高齢者の方などを迎えにくるデイケアサービスのクルマ。そして、車いす乗車のために交通を遮断してしまっている現場を目の当たりにすることもあるかと思う。
低い角度で乗り込めるスロープ仕様車は、車いすユーザーを介助する人にとっては一般的な装置である。しかし、一連の動作による乗り込みを完了するため、それなりに時間がかかってしまうのも事実。
両側スライドドアと広々とした室内、低床設計によるアクセスのよさから、ビリーヴカー(福祉車両)でも高い人気を誇るトヨタ「シエンタ」が、2022年8月に7年ぶりのフルモデルチェンジを遂げた。3代目となったシエンタは、車いす仕様が3タイプ用意される充実ぶりだ。9.5°のなだらかな角度のスロープを持つタイプI。運転席のすぐ後ろに車いすで乗り入れる上、ストレッチャーの乗車も載せられるタイプII。そして、今回もっとも注目したいのが、新たなショートスロープを持つタイプIIIだ。
バックドアを開けると同時に車高が降下し、ショートスロープが展開。省スペース&短時間での乗降を可能とするもの。今回はこのショートスロープ車の使い勝手を実際に試してみた。
ショートスロープで動作を簡素化
操作手順は大きく分けて以下の3ステップ。
Step 1:後部の車高を下げる
バックドアを開けると自動的に車高が下がる。そして、ショートスロープが展開。
Step 2:車いす乗車
車いすの前輪をショートスロープに乗せ、後輪をスロープに押し当てながら車内へと進む。
Step 3:車いすを固定
車いすの前後左右にフックをかけて固定スイッチを押す。あとはハンドルを引いてショートスロープを収納、バックドアを閉めれば自動的に車高が戻る。
介助者役として実際に体験してみたところ、ショートスロープは地面から19cmの高さまで下がるが、前輪を持ち上げる際に若干の力が必要となる。しかし、コツさえつかめてしまえばいたって簡単。何度かトライして慣れると、劇的な早さで車いす乗車を完了させられることに、感心せずにはいられなかった。
車いす乗車をスムーズに行えるということは、車内の暖房や冷房のロスも少なく、周囲の交通を止めているストレスからも解放されることにつながる。さらに手動でのスロープ展開が不要なため、介助者は車いすユーザーから目を離す時間が少なくてすみ、その点でも安心だ。ちなみに乗車人数は車いすユーザー1名を含めて4名となる。
スロープ車の場合、まずスロープを引き出し → (ウインチで引き上げるために)車いすの前輪付近にフロントフックを取り付ける → 車内のスイッチでセーフティモード(後退防止)に切り替え → 車いすの後輪付近にリアフックを取り付け → ベルトを引き、巻きたるみを取る → 固定スイッチで車いすを固定、と操作手順が多かった。そのため慣れていないと、操作時に車内のスイッチやリモコンスイッチに戸惑い、時間がかかってしまう場合も少なくない。
都市部や狭い路地でも便利な省スペース
リヤバンパーと一体型のショートスロープは、乗降に必要なスペースが大幅に少なくなっている。リアエンドからスロープが突出する長さは、従来の1m30cmからわずか17cmに縮小。もはや場所を選ばず、周囲の交通に気兼ねするといったことなく乗り降りできそうだ。
新型シエンタは、コンパクトな5ナンバーサイズのまま、室内高を高く(先代比20mm)し、1列目と2列目の距離を延長(先代比80mm)、スライドドアの開口部の高さを拡大(先代比60mm)するなど福祉車両の観点から見ても快適性がさらにレベルアップしている。そしてショートスロープ仕様車からは、車いすユーザーや介助者だけでなく、周囲のドライバー、社会にとっても快適なモビリティを目指すトヨタの高い視点が感じられるモデルと言えるだろう。主に介護施設などの法人向けとなっているが、気になる方にはぜひ試してもらいたい。
■価格(消費税非課税)
・車いす仕様車“タイプI“ 207万2000円~296万7000円
・車いす仕様車“タイプII“ 230万円~261万6000円
・車いす仕様車“タイプIII“(ショートスロープ) 202万2000円~246万9000円
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