文と写真●Believe Japan
2025/11/22(土)配信
日本最大の福祉機器展「H.C.R.(国際福祉機器展)」に今年も行ってきました! ここでは自動車部品メーカーのJATCOが開発した移乗機構付き車いすをレポートします。

世界各国の自動車メーカーに対し、主に自動変速機(AT)の開発・製造を手がけてきたパワートレイン専門メーカーであるJATCO(ジヤトコ)が、初めて福祉機器分野に本格参入する。その第一弾が、今回の福祉機器展に出展した移乗機構付き車いす「Lifmy(リフミィ)」である。介護の現場では、車いすやトイレなどへ移動してもらうため、ベッドに横たわる人を抱え上げて立たせるという動作が、肉体的にも精神的にも極めて大きな負担となる。Lifmyは、まさにこの課題に対する有力な解決策として注目を集めている。
移動の難関「立ち上がり」をしっかりサポート

被介護者の方の残存筋力を積極的に活用することを前提に「Lifmy」が立ち上がりをサポート、フレイル予防に貢献する。そして、立位が安定して筋肉の変動も少ないことから、ラクに姿勢を保持できる設計だ。また、利用者は残された筋力を日常的に活用することで、筋力や筋量が低下してしまう筋廃用や身体機能の低下を予防することもできる。JATCOはクルマの「走る技術」からひとを「支える技術」へと視点を広げ、精密制御・高品質管理のノウハウを福祉分野にも応用していく考えで、Lifmyは、介護されるひとと介護するひとの双方に寄り添い、移動の自由を支援する製品とされる。

使い方は簡単で、利用者はまずフットステップに足を乗せ、胸や脇のパッドに身体を預けて固定する。次に車輪をロックし、リモコンの「たつ」を押すことで、ゆっくりと立ち上がる。その後、両サイドのシート部を横にして「すわる」操作を行い、車いすに腰掛けた後に車輪ロックを解除し、移動を開始する。目的の場所に着いたら、再度車輪をロックし、リモコンの「たつ」で立ち上がらせ、「すわる」操作によって着座が完了する。


立ち上がりを科学する

「立ち上がりを科学することをテーマにしました」と語るのは、話を伺ったジヤトコ株式会社 介護機器事業室 プロフェッショナルスタッフ 津田聡彦さん。従来の機器は、被介助者の身体を抱えて、物のように持ち上げて移乗させるタイプだが、Lifmyは「立ち上がりたい」との本人の意思を自然なカタチでサポートすることがコンセプトになっている。また津田さんは「まだ残っている筋力を最大限に活かしながらラクに立ち上がれることを目指し、最も自然で負担の少ない立ち上がり時の身体の軌跡を再現しようとしています」と明かす。そのため、じつは立ち上がりのときと座る時の軌跡が異なっているという。立ち上がりの軌跡に沿って座ろうとすると、身体が後ろのほうに傾いて不安になる、といった体験者の声なども反映されている。

Lifmyは本体重量約27kgと軽量で、全長×全幅×全高が919mm×526mm×1021mmとコンパクトなサイズのLifmyは、入り組んだ施設内や、廊下・ドア周りなど家庭の狭い居住スペースでも取り回しが容易である。充電式リチウムイオン電池を搭載し、最大で約120回の移乗動作が可能とされる。また、身長140cm~170cm、体重75kg以下の利用者を対象としており、在宅・施設を問わず扱いやすい設計となっている。
単なる移動補助機器にとどまらず、自立支援と介助者の負担を軽減することを目指すLifmy。軽量設計やバッテリー稼働回数、幅広い対象利用者なども含め、現場導入のしやすさと安全性が追求されている。2026年初旬の発売が予定され、まずは介護施設向けに展開した後、医療・リハビリ分野への拡大も視野に入れている。また、JATCOの海外拠点に対して、その地域でのニーズや利用者の体格などについての情報集めも行なっているという。利用者の生活の質を支え、向上させることに直結する製品となり得るだろう。












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