文と写真●Believe Japan
2026/1/6(火)配信
2025年も活況を呈した欧州最大の福祉機器展「REHACARE(リハケア)」。ここではこれまで紹介しきれなかった「ちょっと変わった」福祉車両をレポートします!

9月17日から20日まで、ドイツ・デュッセルドルフで開催された欧州最大の福祉機器展「REHACARE 2025」は、2025年も世界40カ国から800以上の企業・団体が出展し、88カ国から約3万4,000人が来場する盛況ぶりを見せた。ビリーヴ編集部では、モビリティ分野における注目の最新製品や技術をレポートしてきたが、ここでは少し視点を変え、会場でひときわ異彩を放っていた展示を番外編として紹介したい。
旧車趣味を可能にする運転補助装置

リハケア2025の会場は、先進的な福祉機器やモビリティ支援技術で埋め尽くされていた。電動化や自動化、軽量化、デジタル制御といったキーワードのもと、「より安全に、より効率的に」を追求した製品が並ぶ光景は、この展示会ならではのものだ。その一方で、そうした流れとは明らかに異なる空気をまとった一角があった。福祉車両の改造やコンサルティングを手がけるソーダーマンズ(Automobile Sodermanns)のブースである。そこに広がっていたのは、艶やかで個性的なボディラインをまとったクラシックカー、いわゆるオールドタイマーたちだった。1970年代を中心とする車両が並ぶその光景は、最新技術が主役の会場において強い存在感を放っていた。
さらに驚かされるのは、これらのクラシックカーが単なる展示用の車両ではないという点である。いずれも歩行が困難なドライバーが自ら運転するために改修された、れっきとした実用車なのだ。多くの車両には、下肢を使わずにアクセルとブレーキを操作できるハンドコントロールレバー(ブレーキ・アクセル操作用)や、片手での操舵を可能にするステアリングノブ(操舵補助装置)が備えられている。しかも改修は一人ひとりの身体状況に合わせて丁寧に行われており、オリジナルの外観や雰囲気を損なうことなく、安全かつ快適にクラシックカーを運転できるよう仕上げられている。
カルマンギア

フォルクスワーゲンのシャシーにイタリアンデザイン、ドイツの名門コーチビルダーであるカルマン社の製作技術を組み合わせた、1950年代から70年代を代表する美しいスポーツカー。1970年式のこのクルマは、47馬力を発生する1.6Lエンジンにオートマチックトランスミッションが組み合わされる。室内にはハンドコントロールバーが装着されているが、その質感は内装と自然に調和しており、後付け感を感じさせない。なお、本車両は非売品として参考出展されていた。

クルマの世界観をリスペクト

ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州を拠点とするソーダーマンズは、1996年以来、個々のドライバーの身体状況やライフスタイルに合わせた完全オーダーメイドの福祉車両を手がけてきた。量産車をベースに画一的な仕様を提供するのではなく、一人ひとりの「運転する」という行為そのものに向き合い、車両を仕立て上げていく姿勢が同社の特徴である。代表を務めるフランク・ソーダーマンズ氏は、次のように語る。「我々はクラシックカーに対する強い情熱を持っています。この魅力的な趣味を分かち合い、障害のある方でも自ら運転できるようにすることが、私たちの大きな目標です。そのために、クルマ本来が持つ魅力を損なわない、適切な運転補助装置を装備しています」

現代のクルマとは、クラシックカーが放つたたずまいは明らかに異なる。造形の美しさはもちろん、深みのある塗装の艶やクロームパーツの輝き、重厚なドアが閉まるときの感触と音。さらに、デジタル化が進んだ現代車とは一線を画す、スイッチやボタンを中心としたアナログな操作系も、運転という行為そのものを強く意識させる要素だ。ソーダーマンズが手がけるクラシックカーは、こうした素材感や操作感を大切にしながら、福祉改修が施されている。その仕上がりからは、単なる機能追加ではなく、「運転する歓び」を守ろうとする強い意志が感じ取れる。
ところでドイツでは、登録から30年以上が経過し、良好な状態でオリジナルの雰囲気が保たれている車両に対して付与される「Hプレート(H-Kennzeichen)」が存在する。これはヒストリックカー用の登録制度で、税制面や保険面での優遇措置が受けられる。同社では、こうした制度も踏まえ、歴史的価値を損なわないカスタムを行っている。クラシックカーへのカスタムにかかる費用は、車両の状態や求められる機能などに応じて変動するが、一般的な運転補助装置や手動操作装置の導入であれば、約6000~8000ユーロ(約90万~120万円前後)が目安とされている。
フォルクスワーゲン シロッコ II

ゴルフをベースにしたスポーティクーペ。展示車両は1989年モデルの2代目。初代のコンセプトを引き継ぎつつ、より空力性能を意識した滑らかなデザインを持つ。4灯式の角型ヘッドライトが特徴的で、スポーティな走行性能で人気を博した。1.8Lで95馬力を発生。走行距離は約14万5000kmで、価格(改造費込み)は2万8750ユーロ(約530万円)。ステアリング補助と手動操作装置、ペダルガードが装備されている。

オペル・カデット・カブリオ

名門ベルトーネがスタイリングと製造を担当。当時としては驚異的な空力性能(Cd値0.30)を誇り、1985年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した名車。展示車両は1987年モデルで、1.6L・82馬力を発生。走行距離は約8万4000kmで、価格(改造費込み)は2万2950ユーロ(約420万円)。ステアリング補助と手動操作装置(アクセル、ブレーキに加え、ウインカーやホーンなども操作可能)、ペダルガードが装備されている。

フォルクスワーゲン キャディ

ポロとプラットフォームを共有した小型商用車で、後部は広大な貨物スペースを備え、質実剛健な造りが特徴。展示車両は1998年モデル。現在レストア中で、希望者の要望に応じてオーダーメイドで仕上げていくベース車両とされている。

フォルクスワーゲン ビートル

オリジナルの名称は「Käfer(ケーファー)」で、ドイツ語で「カブトムシ(ビートル)」を意味する。丸みのあるフェンダーと愛らしいヘッドライトが特徴で、世界で最も愛された大衆車の一つ。展示車両は1982年モデルで非売品。

ボルボ アマゾン

1956年から1970年まで製造され、北欧らしい堅牢なボディと優雅なプロポーションを誇る名車。展示車両は1969年モデルで非売品。世界で初めて3点式シートベルトを標準装備したクルマとしても知られる。アクセルとブレーキに加え、クラッチも操作可能な手動操作装置が装備されている。インテリアの美観を損なわないよう、精密に仕上げられた手動操作装置が印象的で、歴史的価値と実用性の両立を示す1台といえる。

フォード トランジット

1965年の登場以来、乗用車に近い操作性と高い信頼性を備え、貨物運送だけでなく、救急車やキャンピングカー、そして福祉車両のベース車としても広く利用されてきた。展示車両は1975年モデルで非売品。リフトアップ仕様である点も注目だ。

フォルクスワーゲン ゴルフ II

1983年にデビューした2代目ゴルフは、コンパクトながら走行性能のバランスに優れたモデル。展示車両は1991年モデルで、走行距離は約9万km。価格(改造費込み)は2万3950ユーロ(約440万円)。1.6Lエンジンを搭載し、出力は約69馬力。ステアリング補助と手動操作装置が装備されている。

アウディ 60 L

戦戦後、アウディが現在の「Audi」というブランド名を再び冠して発売した最初のモデルシリーズ。シンプルで機能的なスタイリングを特徴とし、その後のアウディデザインの礎となった。展示車両は1969年モデルで、現在レストア中。この車両をベースに、オーナーの希望に応じたカスタム計画が紹介されていた。

クルマ文化の豊かさを感じる

日本国内では、自動車メーカー自らが福祉車両の開発に積極的に取り組み、完成度の高いモデルを販売している。一方ヨーロッパでは、「クルマをドライバーに合わせる」という考え方が広く根付いており、既存の車両に後付けで運転補助機器を装着する改修が主流だ。そのため、これまで乗り続けてきた愛車や、家族と共有してきたクルマに運転補助装置を備えることは、ごく自然な選択肢として受け入れられている。しかしその中で、クラシックカーやネオクラシックカーを福祉車両としてカスタマイズするという試みは、やはり独自性のあるアプローチといえるだろう。近年、日本のクラシックモデルは国外でも注目度が高まり、改めて見直されている魅力的なモデルも少なくない。そうした流れを踏まえ、ソーダーマンズのような取り組みが、今後日本でも実現していくことに期待したい。













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