文と写真⚫︎Believe Japan
2026/10/20(火)配信
2026年9月、ドイツのハノーファーで開催された世界有数の商用車国際見本市「IAA TRANSPORTATION 2026」。世界各国の自動車メーカーや商用車関連の企業が集結し、次世代のモビリティが披露された。ここでは会場で関心を集めていたビリーヴカー(福祉車両)を紹介したい。
ヨーロッパで人気を誇る、KiaのEVバンPV5の福祉車両
世界46カ国からおよそ1600社が出展し、14万人を超える来場者となった今回の商用車展。その中でもひと際目を引いていたのが韓国Kia(キア)のブースで、EVバン「PV5」を中心に新世代のモビリティが紹介されていた。なかでも福祉車両として注目したいのが、車いす利用者の乗車に対応する「PV5 WAV(Wheelchair Accessible Vehicle)」。車いすで乗り降りしやすく、移動中も快適に過ごせる。そんな福祉車両の可能性を広げるモデルとして展示されていた。PV5は、日本国内では乗用仕様の「パッセンジャー」と貨物仕様の「カーゴ」が先行して販売されている。WAVについても今後のラインアップ拡充が計画されており、今回、欧州仕様のコンセプトモデルを初めて目にすることができた。
PV5の興味深いところは、クルマの基本設計から多様な用途への展開が想定されていることだ。福祉車両のベースとなるクルマのあり方にも、新たなビジョンを提示するモデルといえる。
車いす利用者と同乗者が、同じ空間で移動する

車いす乗車に対応するクルマを選ぶとき、乗降のしやすさや車いすを簡単かつ安全に固定できることなどが重視されるが、加えて車いす乗車する人も介助する人も、共に安心して快適な時間を過ごせることはとても大切だ。PV5 WAVは、車両の側面から乗り降りする「サイドエントリー方式」を採用し、車いす利用者と同乗者が同じ空間を共有できる福祉車両となっている。

300kgの重量に対応するスロープは、2段階に展開する構造を採用。地面から乗り込む場合の傾斜角を約13度に抑え、歩道の縁石などを利用する場合には、さらに緩やかな角度で乗り込めるよう工夫されている。スロープの長さは、1段階で1250mm、2段階まで展開すると1750mmとなる。状況によっては、スロープを長くすることで傾斜を緩やかにして、車いす利用者が自力で乗り込む際や、介助者が車いすを押し上げる際の負担を軽減している。側面から車いすで乗り降りできるサイドエントリー方式を採用している点も特徴だ。歩道側から乗降できるため、市街地での利用においても使い勝手のよさが期待できる。
また、Kiaは北米の福祉車両関連企業BraunAbility(ブラウンアビリティ)と協力して、PV5 WAVをベースとした車いす利用者向けモビリティのコンセプトも発表している。ニューヨークのタクシーを想定したこの車両では、車いす利用者のアクセス性向上と、車両の改造範囲を抑えることを目指している。こうした取り組みから見えてくるのは、車いす対応車両を単に既存のクルマから派生させるのではなく、車両の基本設計を生かしながら、利用者にとって使いやすいモビリティを実現しようとする姿勢である。
福祉車両のベースとして注目したい「専用設計」

PV5の特徴を理解するうえで、もうひとつ注目したいのが、車両の土台となるプラットフォームである。PV5はPBV専用のEVプラットフォームを採用している。PBVとは「Platform Beyond Vehicle」の略で、「車両を超えたプラットフォーム」という意味だ。その考え方はシンプルで、ひとつの共通した車両基盤を使いながら、乗用車、貨物車、車いす対応車両など、用途に合わせてさまざまなクルマをつくるというものだ。
一般的なバンを福祉車両にする場合、ベース車両の構造や寸法を踏まえながら、乗降用の装置や車いすのためのスペースなどを確保する必要がある。一方、PV5は当初から多様な車体形状や用途への展開を想定して開発されている。専用プラットフォームの特徴のひとつが、室内空間を効率よく確保するための構造で、床面を低く設計できることや、車両の前部・中央部・後部をモジュール化することも可能となる。また車両の基本設計から多様な用途を想定していることで、ベース車両の構造を十分に生かしながら、異なる車体形状に柔軟に対応できる。
日本ではまだ限られる選択肢。海外では多彩な展開

PV5は、乗用仕様の「パッセンジャー」と貨物仕様の「カーゴ」を基本に、幅広いラインアップを展開するモデルである。パッセンジャーには5人乗りや7人乗りなどの仕様があり、カーゴには標準ボディ、ロングボディ、ハイルーフなどが設定される。さらに、車いす対応のWAVや、架装の自由度を高めたシャシーキャブも想定される。シャシーキャブは、車両の基本構造を生かしながら、用途に合わせた荷台や車体を架装するための仕様である。これを利用すれば、貨物輸送などの業務に合わせて車両を仕立てることができる。日本ではまだ限定的だが、海外では用途に応じた多彩なバリエーションが用意されている。Kiaはさらに、冷凍・冷蔵仕様やキャンパーなど、さまざまな用途に対応する車両の展開も進めている。日本で販売が予定される仕様などは未定だが、共通の車両基盤からさらに多様なモデルを生み出そうとする姿勢は印象的だ。
福祉車両は、利用する人や目的によって必要な仕様は異なる。介護施設の送迎、福祉サービス事業者による移動支援、個人の外出など、求められる乗車人数や車内空間、装備は一様ではないが、それらのニーズにもより柔軟に対応できそうだ。その意味で、車両の基本構造を共通化しながら、用途に合わせて仕様を広げるPV5の考え方は、福祉車両の選択肢を考えるうえでも注目に値する。
日本向けのPV5パッセンジャーは679万円から、カーゴは619万円から(いずれも消費税込み)。なお、現在国内で販売されているPV5はパッセンジャーとカーゴの2タイプであり、WAVの国内販売については未定だ。
Kiaが目指すのは、クルマを売るだけではないモビリティ

Kiaは1944年に創業した韓国の自動車メーカーで、現在は世界各地で乗用車や電動車を展開している。近年はEVのラインアップを広げるとともに、PBVを新たな事業の柱として育成している。PBVの特徴は、車両を販売して終わりとするのではなく、さまざまな事業や生活の場面で使えるモビリティを提供しようとしていることだ。用途に応じた車体の展開に加え、車両管理などのデジタルサービスも視野に入れている。
商用車では、車両をどのような業務に使うかによって、必要な仕様が大きく異なる。福祉車両においても、利用者や介助者のニーズに応じて、適切な車両を選べることが重要になる。PV5は、こうした多様な要求に応えるための第一歩となるモデルである。IAA TRANSPORTATION 2026の会場でKiaの展示が存在感を示していたことからも、同社がこの分野に力を注いでいることがうかがえた。
福祉車両としての実際の使いやすさは、車両に触れ、乗降や固定装置、室内空間などを確かめてこそ判断できる。そのうえで、用途の異なる車両を共通の基盤から展開するというPV5の設計思想は、今後の福祉車両を考えるうえでも興味深い。車いす利用者の移動を支える一台として、そして多様な福祉車両のベースとなる可能性を秘めたモデルとして、PV5の今後の展開に注目したい。

展示車両データ

Kia PV5 Passenger WAV(車いす仕様車)
バッテリー容量:71.2kWh
最高出力:120kW(163HP)
主な装備
16インチアルミホイール
フロントシート間に230ボルトの電源コンセント
7エアバッグ
ステアリングとブレーキ介入機能付きアクティブブラインドスポットアシスト
駐車衝突回避支援装置
ターンシグナル内蔵のヒーター付き電動式ドアミラー
運転席/助手席(ランバーサポート付き、電動調整式)
前方衝突警告 1.5(車両、歩行者、自転車)
ストップ&ゴー機能付きアダプティブクルーズコントロール
ワイヤレス充電ステーション(対応スマートフォン用)
自動防眩機能付き室内バックミラー(エレクトロクロミックミラー)
7.5インチのデジタルディスプレイを内蔵、12.8インチの画面を備えたKiaマップナビゲーション
フロント、リア、サイドのパーキングセンサー
全方位ビューカメラ
スマートキーとスタートボタン
V2L(車両から負荷への充電、最大3.6kWの外部機器の充電)
※価格・仕様はIAA TRANSPORTATION 2026で展示されていた車両の紹介データ。















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