文と写真●Believe Japan
シトシトと降る雨の日の乗り降り……。
足が弱った方も介護者も雨に濡れたくないが、乗車するシートそのものも濡らしたくはない。いままでは介護者が片手で傘をさしても、このすべてを濡らさないようにするのは至難の技だった。結果、雨の日は屋根のある場所でないと乗り降りがしづらい。そして、雨の日を外出は控え気味になってしまう。
しかし、そうした常識をトヨタのミニバンたちが変えてくれそうだ。マイナーチェンジしたトヨタ ヴォクシー、ノア、エスクァイアのウェルキャブに、新開発の電動「サイドリフトアップチルトシート」装着仕様車がラインアップされた。東京のお台場にある「メガウェブ(MEGA WEB)」で説明会が行われたので、その模様をお伝えしたい。
今回のサイドリフトアップチルトシートを装着したヴォクシー、ノア、エスクァイアは、「足が弱った方」が後席に乗降する際に、現在考えられるベストな選択のひとつといえるだろう。介助があれば立ち上がることができる方、杖や補助があればある程度の独歩が可能な方、歩くことには問題がないが加齢などで膝に負担をかけるとつらいという方などの利用に適している。
2列目の座席が電動でクルッと回るだけでなく、座席が90度回って道路側を向いたときに、自然と座面後方が高くなる。これによって、足が弱った方や加齢によって膝の角度が曲がりにくい方が、少し腰を落とすだけでシートに腰をかけ体を預けることができる。膝への負担が非常に少ない、それは立ち上がる時も同じこと。ヒップポイントを自然と高くしてもらえた位置で両足が地面につくので、膝への負担が少なく降車時に体が安定する。
乗り降り時の必要スペースが半分以下に
この座席は回転するときに後方を上げるだけでなく、同時に座席自体が「ドアの外へせり出す部分が少ない」構造になっている。それは非常に合理的なつくりで、雨が降っているときでも、一本の傘で大人2人とシートそのものを濡らさないように覆うことができるのだ。せり出しが少ないということは、多くの自宅駐車場が直面する問題も解決する。従来型の電動回転シート(トヨタ車)は、乗り降りするときに車両の横に約1.2mの距離が必要だった。しかし、1.2mもの横スペースを余分に持つ駐車場は多くない。いままでは電動回転シートを利用するために、自宅駐車場を改造しなければならないユーザーもいたという。
左側は従来タイプのサイドリフトアップ、右側が新開発のサイドリフトアップチルトシート。これまでは雨の日の乗り降りで、シートを濡らしてしまうことがほとんど避けられなかった(左上)が、新型ではひともシートも傘の下に収まる(右上)。また、従来型では座面が低くフラットなために、起き上がるのに力が必要な上、大きなスペースも必要だった(左下)。しかし、新型では、座面が適度に高く、前かがみに展開するため、自然な体勢で立ち上がれる(右下)。そして、座席がほとんど外にせり出さないため、車両脇のスペースも大幅に少なくて済むようになっている。
ところが、新しいこの「サイドリフトアップチルトシート」は、たった約55cmの車両横のスペースだけで乗降を可能にする。せり出し部分が55cmなのではなくて、乗降する乗客の乗降スペースとして車両の横に55cmあれば利用ができるのである。これでわざわざ自宅駐車場を改造しなくても、この機構を使える。これはとても大きな違いだ。
「車両の本体価格をできるかぎり低く抑えるのはもちろん、福祉車両を使うために車庫を改造するようなコストの発生を防ぐことも大切です」と語るトヨタ福祉車両製品企画主査の中川茂氏。
「障害のある方は日常的に自動車を使わなければいけないことが多く、また、車両を利用される年月も長いのです。そのため自宅の駐車場を改造等しても積極的にこのような乗降機能を利用しようという方がいらっしゃいます。事実、いままでも障害のある方の家庭には乗降機能付き車両の普及率が高かったのです。しかし、同じくこのような車両を必要とする高齢者の方には普及率が低く、やはりこの自宅駐車場の問題が根本にあるのだと思いました。このサイドリフトアップチルトシートにより、障害のある方だけでなく、お年寄りのご家庭にも導入がされやすくなり、気軽に外出ができるようになるとよいと考えております」と、ウェルキャブの開発主査である中川氏が語る。
外出先の駐車時でも横に十分なスペースが確保できないときがある。そのときでも55cmの幅さえ見つけられれば、乗降が可能になる。専用駐車スペースでなくても、55cmは現実的に十分確保しやすいスペースなのである。
また、旧型と比べて、ステップの位置もさらに改善されている。膝の角度が曲がりにくい方でも、ステップに足がかけやすくなっている。このような細かい点の改善も見逃せない。
乗り降りしやすいように座面の角度を「やや前かがみ」とし、シートが外にせり出さないようにして車両脇の省スペース化も実現。シート展開の操作は、リモコンまたはシートに取り付けられたスイッチによるワンタッチ操作となる。
トヨタでは、ノア、ヴォクシー、エスクァイアを開発時から福祉車両化することを想定して車両を設計している。中川主査は「サイズや仕様を福祉車両にも使えるように最初から設計して、販売価格をできるだけ安く抑えたいと努力をしています」と明らかにした。
この「サイドリフトアップチルトシート」は、利用者やシートが濡れることを気にしないで、雨の日の外出も楽しめるようにしてくれる。リーズナブルで実用上使い勝手のよい機能なのである。
マイナーチェンジで顔の変わったヴォクシー。ノアとエスクァイアにもサイドリフトアップチルトシート車が設定された。
【価格】
トヨタ ヴォクシー サイドリフトアップチルトシート車 267万1000円
トヨタ ノア サイドリフトアップチルトシート車 267万1000円
トヨタ エスクァイア サイドリフトアップチルトシート車 286万4000円
※消費税は非課税。4WD車は、19万円高。
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