文と写真●Believe Japan
「2017国際ロボット展」で、話題のヒューマノイドロボット「トヨタ T-HR3」がデモンストレーションを行った。ブースに駆けつけてみると、開始時間前にもかかわらず、この未来的なロボットを確かめようと多くの来場者が詰めかけていた。そして、熱気に包まれながら実演がスタート。まずは、操縦者と一緒にT-HR3が登場する。その姿は我々がSF作品などでイメージする「ロボット」そのものだ。身長154cm、体重75kgというスペックもまた非常に人間に近いもので、そのパフォーマンスも目を疑うような驚きに満ちたものだった。
操縦者は「マスター操縦システム」と呼ばれるシートタイプの機械に腰掛けてT-HR3を自在に操ることができる。これは、肩から腕、肘、手首、指、さらには足というように細かい動きを感じるための高感度センサーを備えたもので、操縦者が腕を上げながら首を傾けるなどの動作を行えば、その横ではT-HR3がまったく同じ動きをする。驚くのは両者の間にほとんどタイムラグが感じられなかったことだ。
操縦者はヘッドマウントディスプレーを装着することで、T-HR3の頭部に装着されたステレオカメラが映し出す立体映像を見ながらロボットを操縦する。それにより、自然な感覚をもとに細かな操作が行えるのだ。さらにロボット自身が受ける「抵抗」や外部からの「力」も操縦者にリアルタイムでフィードバックされるというのだから驚く。これにより、操縦者はあたかもロボットの内部に乗り込んで操縦しているようなダイレクトな感覚を持つことができるだろう。
また、T-HR3は離れたところから操作できるため、将来的に家事全般や介護、育児など日常のサポートだけでなく、建設作業現場や災害地域、宇宙空間などの過酷な環境でも、ハイレベルな作業を行うことができるという。
まるで生きているかのような自然な動き
仕様などの詳細は以前の記事をご参照いただくとして、ここでは「T-HR3」の滑らかな動きやボディのハイレベルな制御をご覧いただきたい。
歌舞伎の見得(みえ)や空手の上段回し蹴りなど、片足を高く上げたポージングもスムーズにこなす。
陸上のウサイン ボルト選手の決めポーズやサッカーのシュートなど、躍動感あふれるポーズも。
実演はリアルタイムでの操縦だけでなく、プログラムに従っての動作も披露された。数多くのアクロバティックなポージングが行われ、T-HR3の自然な動き、不安定な状態での姿勢保持など高度な制御技術がアピールされた。また、あるポーズから次のポーズへの変更も素早く自然に行い、32個の関節と10本の指という複雑な可動部分のスムーズさを存分に披露した。
人間と共に生きるヒト型ロボット
ところで、ただ機能性を追求するのであれば、ロボットが「人間」のカタチをしている必要はないかもしれない。むしろ、用途に合わせてデザインしたほうが、機能の面でも作業効率、エネルギー効率の観点からも都合がいいのは明らかだ。単に平面を移動するのであれば、車輪をつけたほうが二速歩行をするよりはるかに安定して高速で移動することが可能である。また、階段を上ることを考えてもキャタピラーを付けてロボット本体の高さを低くしたほうが、二速歩行で重心が高い人間型ロボットよりも有利だろう。
ところが、このパートナーロボットの開発を主導するトヨタの玉置章文氏は、ユーザーに「安心感を与える“やさしさ”を兼ね備えたロボット」の開発を目指しているという。機能的な優秀さ(賢さ)だけではなく、カタチからもやさしさを表現しているのだろう。
鉄の塊が、プログラムされた仕事を素早く正確にこなしていく「産業用ロボット」ではなく、人間が親しみを持てる造形を持ち、動作や仕草からも優しさを表現できるようなロボットこそが、優れた「パートナーロボット」と言えるのかもしれない。そんなことを考えさせられたのが、今回見たヒューマノイドロボット「T-HR3」のデモンストレーションだった。
会場には生活支援ロボット「HSR」も展示され、その画像認識性能に注目が集まっていた。
1980年代から産業用ロボットを開発してきたトヨタは、近年では自動車の生産、開発技術を応用し、ひとの生活をサポートするパートナーロボットの開発を積極的に進めている。今後はさらに「高齢者や障がいを持つ方々、そして医療・介護関係者を支援し、人と寄り添うロボット開発に取り組んでいく」との展望を明らかにしている。
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