文と写真⚫︎大音安弘
2023/12/29(金)配信
欧州最大の福祉機器展「REHACARE(リハケア) 2023」が、2023年9月13日~16日の期間、ドイツ・デュセルドルフで開催された。今年の出展社は700社を超え、来場者の総勢が3万人となる盛況ぶり。その会場で出会った福祉車両やモビリティを紹介したい。
車いす利用者との日常生活や、旅先でのシームレスな移動を実現させるエコなモビリティがドイツのスタートアップ企業「enlitec」の「roll e-bike(ロールイーバイク)」だ。
「roll e-bike」は、簡単にいえば車いす用の自転車で、車いす利用者と同行者(介助者)がいっしょに移動できるだけでなく、移動の自由度を高めるものだ。自転車部は電動式となっており、最高速度25km/h。後輪と荷台の間にセットされるリチウムイオンバッテリーの航続距離は最大50kmと、少し遠くへのサイクリングにも出かけられる性能を持つ。モーターの最大トルクは80Nmと力強く、8段ギアを組み合わせる。ブレーキも前輪ドラム式、後輪コースター式を備える。前輪は車いすのタイヤと兼用となるが、サイズも自転車同等をキープしている。海外のため、フル電動機能も備えており、6~7km/hに速度を固定させて走ることもできるという。
最大のポイントは、車両を簡単に分解できること。本体は車いす部、車いすのフットレスト、前輪×2、ハンドル、接続用プレート、電動自転車部の7分割が可能。車いすだけでなく、自転車もフレームが折り畳み式となっているため、自動車のトランクにも収めることができる。組み立ても分解も工具は一切不要な構造で、慣れれば2分程度で完了するシンプルさだ。組み上げた際に、車いす部の前輪がリフトする構造となっており、車いすの後輪が操舵輪となる仕組みだ。自転車モードは、組み上げた状態のみ利用できるが、アルミニウム製の軽量な車いすは、単独利用も可能。だから、車いす利用者が出先で単独行動することもできる。
自転車の運転は、通常の自転車と同様。さらに電動アシストだから、アップダウンのある郊外路でも快適に移動できる。ほかにも同様の製品も見られるが、一体感あるデザイン性のよさや、車いすだけで利用可能としているのが特徴といえる。担当者に想定ユーザーを尋ねると、家族などの利用だけでなく、カップルにも気軽にサイクリングを楽しんでもらえればと話す。まさにハンディキャップのある人の生活を豊かにする願いが込められているのだ。
車両の種類は、車いすのサイズ別に子供用、標準用、ワイド用の3つを用意。最高車速の設定はナンバーの取得を不要とするため、25km/h以下(※ドイツ国内法規への適合のため)としているという。もちろん、車いす部には、安全ベルトも装備されている。
製品の特徴について担当者は、「電動アシスト付きの車いす用自転車では、これほどコンパクトに分割できるものはほかにはない。そして、圧倒的に低価格だ」と説明する。現在、2024年1月~3月の欧州地区での発売を予定しており、価格は5000ユーロだという。ドイツ在住者の情報では、前方に大きな荷物入れ付きの3輪電動アシスト自転車でも5000~7000ユーロするというから、かなり破格といってもよさそうだ。低価格の秘密は至ってシンプル。薄利多売がねらいなのだ。同社は2022年夏に起業したばかりで、「roll e-bike」が初の商品化だという。すででさまざまなアイデアが動いているが、市販化が決定しているのは、現時点では同製品だけというから、驚きの戦略的価格も納得だ。
公式サイト
https://enlitec.de/
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