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ノルウェーの社会福祉と自立の精神

By wpmaster · On 2016年12月9日

文●中村孝則(コラムニスト) 写真●Innovation Norway

  コラムニストとして、ライフスタイルをテーマに、20年近く海外に出向き取材を続けています。なかでも、ノルウェーという国は取材対象のひとつとして、幾度も取材を重ね数多くのメディアで発信してきました。親しい知人たちがノルウェー関連の仕事に携わっていた幸運も重なり、そうしたご縁がつながって、2010年10月にノルウェー王国大使館通商技術部より、「Hr.StyleNorway(ヘル・スタイルノルウェー)」の称号を与えられました。これは、ノルウェーの魅力を伝える親善大使のような役割で、2015年の9月までの5年の任期中には、より深く同国を取材する機会を得ました。ちなみに、この称号及び任務は、私が最初で最後ということで、特別な経験となっています。

 さて、ノルウェーは北欧ということもあり、日本ではいまひとつ馴染みの薄い国でもあります。しかし、両国には共通点も多く、未来に向けた国家戦略において日本がノルウェーに見習うところは随所にあると、折にふれて訴え続けてきました。とくにその福祉政策はユニークで示唆に富んでいます。

 ノルウェーの社会福祉は、教育や医療、障害者や子育てなどにおいて手厚いことは知られていますが、その本質やそのほかの独創的で実験的な福祉については、日本ではまだ報道や研究が少ないのが実情です。たとえば、ノルウェーで推進しているダイバーシティ政策について。1988年に女性の社会参画を促すべく男女平等法が改定され、世界に先駆けて「クオータ制」が法的に定められました。これは、「公的委員会・審議会は4名以上で構成される場合、一方の性が全体の40%を下ってはならない」というもので、2004年から政府系企業の取締役会、2008年からは一般企業の取締役会でも罰則規定が設けられるという徹底ぶりです。

 

 ノルウェーでは同時に、男性の育児休暇の義務化と、保育園の完全入園の実現にも積極的に取り組んでいます。女性の社会参画は、女性だけの問題ではありません。少子化対策や児童福祉、あるいは男性の労働環境と意識改革の問題と密接につながっています。 ノルウェーでは、1990年代の初頭から、こうした諸問題に対して組織の垣根を越えて、包括的に取り組んでいます。この例をひとつ取ってもわかりやすいのですが、ノルウェーのイノベーションの特徴は、ひとつの課題に対して「横軸」で連携できることです。これは「縦割り」の行政システムを持つ日本が、ノルウェーから学ぶべき最も大きな課題でしょう。たとえば、クオータ制については、日本では議論がはじまったばかりですが、これを単体で論じても、最終的な問題解決にはならないのは自明です。むしろ男性の働き方や家族との過ごし方が鍵になってきます。「女性の社会参画問題は、裏を返せば男性の家庭参画問題」でもあるわけです。その意味で、日本でこの課題を研究するならば、ノルウェーの男性の意識調査をするべきだ、というのが私の持論でもあります。過去に多くのノルウェー男性に、この問題を投げかけてきましたが、彼らの本音は、けっこう正直で面白いものです。まあ、その話は次の機会に譲るとして、今回はノルウェーが取り組む高齢化社会に対する新たな取り組みについてお伝えしたいと思います。

 ノルウェーも、先進国の御多分に漏れず、高齢化が社会問題になりつつあります。そしてこの国は、高齢化対策の分野でも世界をリードしているのです。「グローバル エイジ ウオッチ指数」というのをご存知でしょうか?「グローバル エイジ ウォッチ指数」は、高齢者のための人権擁護団体「ヘルプ・エイジ・インターナショナル」が毎年発表する高齢者のランキングです。高齢者の収入や健康、雇用や教育など、高齢者の「生活の質」を独自の指数を用いて、国別で比較するというものです。言ってみれば「高齢者の住みやすい国」ランキングです。毎年、国連総会において世界高齢者デーに定められた10月1日に発表されるのですが、その2016年の最新ランキングで、ノルウェーが第1位になりました。今年度は、調査対象となった96カ国のうちノルウェーがランキング第1位で、2位がスウェーデン、スイス、カナダ、ドイツと続きます。ちなみにオフィシャルサイトはまだ更新されていませんが、日本は昨年の2015年のランキングでは8位でした。

参照元:Global AgeWatch Index 2015 公式(外部サイト)

 ノルウェーでは、この分野でも以前から社会的な取り組みがなされ、その努力がランキングに結びついたと言ってもいいでしょう。そして先ごろ、ノルウェー政府は、世界に先駆けて高齢化社会に向けた新たな戦略を発表し、それが話題になっています。この政策のねらいについて、ノルウェーのホイエ保健・ケアサービス大臣は「年齢を重ねることに関するネガティブな側面にとらわれることなく、何よりもポジティブな可能性に注目する。必要となるのは高齢者のアクティブな生活を促進し支える施策です」と、発言しています。またハイバルグ前副大臣は「シニア層の多くは職場や社会、政治の世界に疎外感を感じていますが、その偏見を取り払い、高齢者にやさしい社会をつくります」と語っています。ちなみに、ハイバルグ前副大臣は2015年の夏に来日し、日本における高齢化社会の現状と取り組みを視察しています。その戦略の詳細がweb上で発表されていますので、注目すべき点を補足いたします。

「More Years – More Opportunities(英語)」

 この新たな戦略は、「高齢者の経験やリソースを活かし、彼らの社会参加・貢献を促すことを目的」としています。そのためには、「高齢者に対する固定概念や偏見をなくし、人々の意識を変え、さらに相応の制度が必要」としています。まあ、ここまでは正論ですね。具体的な対策として挙げているのは、現役社会生活期間の充実、高齢者に優しいくらしの環境整備、ボランティア・市民社会との連携などですが、個人的に注目しているのは次の項目。「高齢者のアクティブな生活を支えるための、テクノロジーの開発と活用が欠かせない」という項目です。そして、とりわけ、「モビリティ(移動)」のためのテクノロジー開発が重要だと定義しています。公共交通システムのインフラはもちろんですが、むしろ自動運転のクルマや、運転支援システムの研究が急務だともあります。その延長線上には、「福祉車両や車いす」の研究というのもあるでしょう。また、高齢者のアクティビティは、自らが移動できてこそ担保されるべきだ、という前提がいかにもノルウェーらしい戦略だと思います。

 それだけではありません。「高齢者の移動の自立は、彼らの日々の生活を支えるだけでなく、観光産業にとっても大きな潜在力になる」と、ノルウェー政府はこの戦略で訴えています。たしかに高齢者にとっても観光は生活の中での大きな楽しみでもあるはずですが、ここで注目すべきは、「高齢者は消費者でもある」という点です。高齢者は潜在的な消費者であり、その受け皿として観光業は期待されるマーケットでもあります。産業の面からも、高齢者の移動のためのテクノロジー開発が必要だ、というのがこの高齢者戦略のユニークさです。そして同時に、ノルウェー人の逞しさや、したたかさをも感じ取ることができると思います。

そもそもノルウェーの人びとは、自然環境の厳しい国土ということもあり、自立精神が極めて高いといえます。ノルウェーの地方を旅して驚くことは、よくもこんな辺鄙(へんぴ)なところに家があるな、ということです。ところが彼らを観察すると、そんなところに住んでいる酔狂な自らをあえて楽しんでいるフシがあります。もちろんそのためには、自分たちで可能な限り自立した生活を担保しなければならないこともよく心得ています。しかしその上で「あえて楽しむ」という精神こそが、ノルウェー人から見習うべき最たるものだと思います。

 高齢者問題だけでなく、あらゆる福祉においてノルウェーが世界をリードしているのは、そもそも彼らの自立精神や自己責任のレベルが高いからであるという事実を見逃してはなりません。高齢者たちは必ずしも、便利さや効率、安全性だけを求めているわけではないのです。「自立」、それは今後、われわれ日本人が福祉におけるテクノロジーを考える上で、欠かせないポイントになるであろうと改めて思うのであります。

 


中村孝則

コラムニスト。1964年神奈川県葉山町生まれ。ファッションからカルチャー、旅やホテル、ガストロノミーからワイン&シガーまで、ラグジュアリー・ライフをテーマに、執筆活動を行っている。2015年秋まで、ノルウェー王国大使館通商技術部より、Hr.StyleNorway(ヘル・スタイルノルウェー)の称号を与えられ、ノルウェーの魅力を伝える親善大使の役割を担った。また現在、「世界ベストレストラン50(The World’s 50 Best Restaurants)」の日本評議委員長も務め、テレビ番組の企画やトークイベント、講演活動も積極的に展開している。

 

 

 

 

【ノルウェーにおける男女平等の主な出来事】

1910 女性に地方選挙権が与えられる。

1913 女性に国政選挙権が与えられる。

1978 男女平等法(Gender Equality Act)成立、1979年より施行。

1981 第一次ブルントラント内閣(初の女性首相)

1986 第二次ブルントラント内閣において18の閣僚ポストの8つに女性が就任。

1988 男女平等法が改訂され、「公的委員会・審議会は4名以上で構成される場合、一方の性が全体の40%を下ってはならない」となる(いわゆるクォータ制)。

1993 父親による育児休暇制度導入。育児休暇のうち父親が4週間を利用するものとし、利用しない場合は権利が消滅することとなる。

2003 男女平等法に新たに条項が加えられ、すべての雇用主が男女平等の状況を明らかにし、その情報を年次報告書に記載することが義務付けられる。

2004 政府系企業で取締役会がクォータ制の規定を満たすことが義務付けられる。

2005 一般株式会社の取締役会がクォータ制の規定を満たすことが義務付けられる。

2008 「男性の役割と男女平等」白書が政府から国会に提出される。

2009 父親の育児休暇の期間が10週間となる。

2011 父親の育児休暇の期間が12週間となる。両親の有給育児休暇が1週間ずつ延長される。

2013 父親の育児休暇の期間が14週間となり、両親の有給育児休暇が2週間ずつ延長される。

2013 9月の総選挙で二人目の女性首相が誕生する。(アーナ・ソ-ルバルグ、保守連立内閣)

2014 父親の育児休暇の期間が10週間となる。

【両親の育児休暇制度(2014.7現在)】

 産休前の給与100%受給の場合は49週間、80%の場合は59週間。ただし、規定の上限額あり。両親併せて3年間の育児休暇の取得可能。このうち、母親、父親に割り当てられた週数はそれぞれ10週、残りはどちらが取得しても構わないが、産後6週間は母親が取るよう定められている。父親が割り当てられた週数を取得しない場合は全体の週数から差し引かれる。

資料提供:ノルウェー王国大使館広報部

写真:Innovation Norway

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