文と写真●Believe Japan
成長するイベントのテーマは高齢者の自立
ドイツ西部の文化、経済の一大中心地であるデュッセルドルフ。さまざまなアンケートなどで「住みやすい都市」と評価されるこの街は、訪れてみると実際に落ち着いた佇まいと静寂さが心地よい。日本企業の多くが進出していることでも知られるが、近年は、欧州最大、世界有数という福祉機器展「REHACARE(リハケア)」でも知られている。
毎年開催されるREHACAREだが、障害のある方や介護する方のニーズに対応したリハビリテーションや機器、製品についての充実したプレゼンテーションに加えて、2016年は、「高齢者の自立」をサポートすることが、大きなテーマとなっていた。ヨーロッパでも一部の地域を除いて、高齢化は今日大きな社会問題となっている。そのため福祉に対する意識も年々高まりを見せているという。
身体が不自由な方や介護が必要な方、さらには自分の思うままに人生を送りたいと願う高齢者にとって、「有益となる情報や補助が得られる場」の提供を目指したという今回のREHACAREだが、36カ国から916社が出展し、4日間の日程で来場者数が4万9300人に達するなど、過去39年の歴史のなかでも最高の盛り上がりを見せた。
広い会場では、日常生活に役立つ便利なアドバイスから、最先端のモビリティアイテムや在宅ケアシステムのデモンストレーションまで、多彩なプレゼンテーションが行われ、来場者の多くは足を止めて熱心に聞き入っていた。パンフレットに真剣に目を通す方、実際に機器を試している方など、イベント全体に熱気が漂っていた。そして来場者だけでなく、出展した企業や団体もREHACAREに大きな手ごたえを感じているようだ。出展者に行ったアンケートの結果、90%を超える出店者がイベントに「満足」を示し、83%は実際に商談が良好に行われたと解答、88%はイベント後のフォローアップに期待が持てるとしている。数字からも、年々規模を拡大するメジャーイベントの勢いが感じられる。
日本の福祉機器展と比べ、車いすでの来場者の割合が高いようだが、広い会場は通路にもゆとりがあり、整然と快適に見てまわれる。また、来場者同士、メーカースタッフなどとのコミュニケーションも積極的に交わされている印象だ。
メーカーのブースだけでなく、スポーツのデモンストレーションも行われていた。ドイツでは障害者スポーツの人気は高く、車いすバスケの会場では大きな歓声が上がっていた。
「華麗なるギャッツビー」仕様にカスタマイズされた電動車いす。
福祉車両、日本とヨーロッパの違い
総合的な福祉機器展であるREHACAREだが、なかでも「モビリティ(移動)」に関する出展は多く、会場でも大きな存在感を放っていた。ところで、各ブースをくまなく歩いてみて、福祉車両について、日本とヨーロッパで大きな違いがあることに気づかされた。
それは、日本の福祉車両は、自動車メーカーの多くが「完成車」として、充実したラインアップの福祉車両の販売を行っているのに対して、ヨーロッパでは、アフターパーツが数多く販売され、今乗るクルマを「福祉車両にカスタムする」というのが一般的であるということ。展示会場を歩いても、福祉車両用の機器を扱うメーカーが数多く出展している。自動車メーカー自身が、広々としたスペースに自前の福祉車両(完成車)を数多く並べて展示する日本とは少し異なるスタイルと言えるだろう。
自動車メーカーが開発段階から「福祉車両を念頭に設計」することで、よりハイレベルな機能や使い勝手が期待できるのが日本式のいいところ。ヨーロッパは、自分の乗っているクルマ、好きなクルマに、福祉機能を持つパーツを随時取り付ける、というスタイルが特徴となっているようだ。気になるアタッチメントが自分の車に対応しているかを問い合わせる人の姿も多く目にした。
東京の「国際福祉機器展」や大阪の「バリアフリー展」を訪れて感じるのは、福祉車両、福祉機器が洗練されていてクオリティが高いこと。一方、デュッセルドルフの「REHACARE」会場では、多くの独創的な製品に目が止まった。最後に、その中から気になったブースやアイテムを紹介する。
700カ所以上の販売店を持つカーアダプテーションの大手、ドイツのアウトアダプト(Autoadapt)のブース。メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンなどの国内メーカー、欧州ブランドのモデルに対してのさまざまなニーズに対応するカスタマイズサービスを提案していた。
車両後方のスロープが主流の日本と異なり、ヨーロッパの福祉車両は、車両の真横から乗り込む「サイドスロープ」タイプが多い。写真はメルセデス・ベンツブースに展示されていたVクラスの福祉車両。
前方に伸びるタラップにより、車いすに座ったまま乗り込むことができるチェコのマイクロカー「エルビー(Elbee)」。運転操作は手だけで簡単に行え、最高速度は時速80㎞。都市部でのモビリティを想定している。
セグウェイの技術により、操作性と機動性に優れ、オフロード走行も可能な2輪タイプの電動車いすが、スイスの「ジェニー(Genny)」。
カーボン複合材のバネ装置「ループホイール(Loopwheels)」は、従来のスポークの代わりになるだけでなく、サスペンションのように緩衝機能を持ち、滑らかな乗り心地と高い快適性、そしてファッション性で注目を集めていた。
ハノーファーで行われた世界最大規模の国際商用車展IAAでも展示されるなど、大きな注目を集めているのがこの「ヘッド&バックレスト(HEAD AND BACK REST)」。衝突時に車両後部に車いすで乗車したひとの安全を高める装備で、国内の福祉車両にもぜひ導入を期待したい。
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