文と写真⚫︎Believe Japan
2026/10/28(水)配信
2026年秋、ドイツのハノーファーで開催された商用車の国際見本市「IAA TRANSPORTATION 2026」。世界各国の自動車メーカーや商用車関連の企業が次世代のモビリティを展示して盛り上がりを見せた。ここでは会場で関心を集めていたビリーヴカー(福祉車両)を紹介したい。
商用車としての実用性と乗用車の使いやすさを備えるキャディ

今回紹介するのは、フォルクスワーゲンのコンパクトバン「キャディ Maxi(マキシ)」をベースとしたプラグインハイブリッド車(PHEV)の福祉車両、「キャディ マキシ スタイル eハイブリッド」である。展示車は、ほぼ市販モデルという位置付けのコンセプトモデルであり、車いすでの乗降を可能にするための床面加工やスロープなど、実用化を見据えた架装が施されていた。
展示ブースには多くの来場者が訪れ、車両を間近で確認する姿が見られた。クルマの電動化が進むなか、福祉車両においてもベース車の選択肢を広げることが重要なテーマとなっている。とりわけ、乗用車に近い使い勝手を持つコンパクトバンを、どのように車いす対応車へと仕立てるのか。このモデルには、その具体的な取り組みが表れている。
キャディは、フォルクスワーゲンの商用車部門が展開するコンパクトバンとして有名。本国ドイツだけでなくヨーロッパ全土で「質実剛健なプロの仕事道具」として、高い積載性や実用性が評価される。一方、現行世代はゴルフなどにも採用される共通のプラットフォーム(MQB)をベースに開発されており、商用車として荷物を積みやすい空間を確保しながら、乗用車としての快適性や走行性能にも配慮して幅広く人気を集めている。
ボディは用途に応じて選べ、荷物の運搬を重視した商用仕様に加え、乗用仕様も用意されている。なかでもホイールベースと全長を延長した「Maxi(マキシ)」は、広い室内空間を生かした多彩な使い方が可能だ。こうしたキャディの特徴は、福祉車両のベースとしても生かされている。ゆとりの車内空間を活用し、車いすで乗り込めるように床面や後部開口部を加工することで、移動のための車両へと仕立てることができる。今回のキャディ マキシ スタイル eハイブリッドも、コンパクトバンとしての基本設計を生かしながら、車いすでの乗降に対応する架装を施した1台である。
PHEVでも車いす対応を実現する架装技術

展示車で注目したいのは、PHEVをベースに車いす対応の架装を施している点である。後部から車いすで乗り込むには、後部からアクセスできるスロープに加え、車内の床面を低くして乗降時や乗車中の空間を確保する必要がある。しかし、PHEVでは駆動用バッテリーや燃料タンクなどの配置にも配慮しなければならない。
この架装を手掛けるドイツのMobiTECは、車いす利用者の乗降や移動を支援する福祉車両の架装を多く手がけ、スロープや車いす固定装置、乗降補助装置などを開発している。このキャディ マキシのPHEVをベースとするにあたり、床面を低く加工して車いすに対応する仕様に仕上げている。後部には折り畳み式のアルミ製スロープを備え、その長さは1310㎜。床面の傾斜はわずか1.5度に抑えられており、車いすで乗り込んだ際にも、ほぼ水平に近い姿勢を保てる設計となっている。また、架装に伴い、標準で50Lの燃料タンクを38Lに変更している。PHEVの駆動用バッテリーを含む車両の構成に配慮しながら、車いす対応に必要なスペースを確保するための工夫である。
車いす利用者の安全確保にも配慮されている。オプションとして4点式の車いす固定装置、腰ベルト、肩ベルトを設定。車いすそのものを固定するだけでなく、乗員の身体を適切に保持するための装備も用意されている。
さらに、後席の純正ベンチシートを残す構成を採用している点も見逃せない。車いす利用者と同乗者が一緒に移動することを想定し、車内の使い方に柔軟性を持たせている。MobiTECによれば、折り畳み式の回転シートを追加して7人乗りとする仕様や、車いす対応タクシー向けのスロープも選択できる。
福祉車両のベースとして広がる可能性

福祉車両では、車いすで乗降できることだけでなく、乗員の安全、同乗者の座席、荷物の積載、そして日常的な取りまわしなど、複数の条件を満たす必要がある。ベース車の車体構造やパワートレインが変われば、架装方法にも工夫が求められる。今回のキャディ マキシのPHEV仕様は、電動化された車両を福祉用途へ展開する際の具体例といえる。MobiTECは、フォルクスワーゲンから改造に対する異議なしを示す確認書「Letter of No Objection(LONO)」を取得したことも公表している。これは、架装内容について車両メーカーが確認したことを示すもので、改造車の実用化に向けた重要な要素だ。
なお、この車両は日本国内で販売されていないため、国内で導入を検討する場合は、車両の入手方法に加え、国内での登録手続きや整備体制なども確認したい。
それでも、欧州で展開されるキャディのようなコンパクトバンが、PHEVを含む複数のパワートレインを福祉車両のベースとして活用できることは、今後の車いす対応車を考えるうえで注目すべき動きといえる。移動手段の選択肢を広げるためには、ベース車の進化と、それを福祉用途へ適応させる架装技術の双方が重要だ。フォルクスワーゲンのキャディ マキシ スタイル eハイブリッドは、電動化と福祉車両の実用性を結び付ける、その取り組みを示す好例であった。
展示車両データ

フォルクスワーゲン キャディ マキシ スタイル eハイブリッド(市販前提コンセプトモデル)
エンジン: 1.5L eハイブリッド OPF EU6(プラグインハイブリッド)
トランスミッション: 6速 DSG(デュアルクラッチトランスミッション)
主な装備
ボディビルダープログラマブル機能コントロールモジュール
2列目シート/3人掛けベンチシート(折り畳み・タンブル・取り外し可能、両外側にISOFIXおよびTop Tetherアンカーポイント装備)
3列目シート/ 3列目独立2座用シート固定用準備
4ウェイ電動ランバーサポート(左右)
レーンチェンジアシスト「Side Assist」(ブラインドスポット検出「Blind Spot Detection」、リアトラフィックアラート「Rear Traffic Alert」、降車警告機能「Exit Warning」付き)
運転支援システム「Travel Assist」(車線維持アシスト「Lane Assist」、緊急時アシスト「Emergency Assist」付き)、アダプティブクルーズコントロール(ACC)
MOBITEC社製 架装装備(抜粋)
車いす移動車用リアカットアウト(スロープ付き)
価格
キャディ トレンドライン(19%付加価値税込): 3万6104.60€
オプションを含めた展示車両の価格(税込): 5万2395.70€
※2026年9月1日時点















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