文 ●Believe Japan 写真●北川泉 「乗ってみたい!」。ひと目見てそう思わせる車いす。 電動車いすの「WHILL」は、まずそのカタチで語りかけてくる。見るからに未来的で洗練されたデザインは、理屈抜きに「乗ってみたい!」と思わせるものだ。発売開始以来、大きな反響があるというのもうなずける。 そしてこのWHILL「Model A」は、見た目がおしゃれなだけではけっしてない。コンパクトなボディには、高い機能性と快適さが込められている。24個の小さなタイヤで構成される「オムニホイール(全方位タイヤ)」は、独自に開発されたもので、「4輪駆動」と相まって、細い路地、砂利道、芝生、でこぼこ道など、悪路の走行を可能にし、高さ7.5cmの段差を乗り越えることもできる。いままでなら「ここで待ってるから……」と躊躇していた場所にも、臆することなく進んでいけるのだ。 屋内用、屋外用、レジャー用というように、用途に合わせて何台ものパーソナルモビリティを使い分ける必要はなく、WHILLが1台あれば、さまざまな場所へ行くことができる。その可能性の広がりは、ユーザーの気持ちを大いに解放してくれることだろう。 「100メートル先のコンビニもあきらめる」の言葉に挑んだ 杉江 理さん、内藤淳平さん、福岡宗明さんという3人の若者を中心に、2012年、利用者に優しい「車いす」の開発を目指して設立されたベンチャー企業「WHILL」だが、そのきっかけとなったのは、彼らが神奈川県のリハビリテーションセンターを訪れた際に聞いた車いす利用者の「100メートル先のコンビニも諦めてしまう」という言葉だったという。それは、たった100メートルというわずかな距離であっても、「ちょっとした段差が乗り越えられない」、「砂利道があって走れない」といった、悲痛な訴えだったという。また、物理的なバリアだけでなく、車いすで出かけることへの億劫さや不安といった心理的なバリアも存在するという。 電動車いすWHILLは、これらのバリアを克服し、スマートで機能的な新しい「パーソナルモビリティ」を目指して開発されたという。 サイズ(Model A)は、長さ89cm(前後スライドによる) x 幅60cm x 高さ90cm、重量は:116kg。約9時間程度でフル充電し、最大約20kmの走行が可能だ。最大10°の登坂力がある。 WHILL。神奈川県横浜市にある日本本社を訪れてみて、実際にWHILLに触れ、試乗させてもらった。初めてにもかかわらず、ほぼ自分の思いどおりに動く、そのしなやかな挙動に感銘を受けた。前後左右、そして斜め方向にも、リニアに移動してくれるのだ。数分も乗っていると自分のカラダに馴染んでくる感覚になる。 最高時速は、歩道を走行できる制限の6km。レバーで時速4kmに制限することも可能で、歩行者の隣を走るのに便利な機能となっている。「子供の送り迎えを、手をつなぎながらできるようになりました」というお母さんユーザーからの喜びの声も届けられたという。... ...
On 2016年12月14日 / By wpmaster文●中村孝則(コラムニスト) 写真●Innovation Norway コラムニストとして、ライフスタイルをテーマに、20年近く海外に出向き取材を続けています。なかでも、ノルウェーという国は取材対象のひとつとして、幾度も取材を重ね数多くのメディアで発信してきました。親しい知人たちがノルウェー関連の仕事に携わっていた幸運も重なり、そうしたご縁がつながって、2010年10月にノルウェー王国大使館通商技術部より、「Hr.StyleNorway(ヘル・スタイルノルウェー)」の称号を与えられました。これは、ノルウェーの魅力を伝える親善大使のような役割で、2015年の9月までの5年の任期中には、より深く同国を取材する機会を得ました。ちなみに、この称号及び任務は、私が最初で最後ということで、特別な経験となっています。 さて、ノルウェーは北欧ということもあり、日本ではいまひとつ馴染みの薄い国でもあります。しかし、両国には共通点も多く、未来に向けた国家戦略において日本がノルウェーに見習うところは随所にあると、折にふれて訴え続けてきました。とくにその福祉政策はユニークで示唆に富んでいます。 ノルウェーの社会福祉は、教育や医療、障害者や子育てなどにおいて手厚いことは知られていますが、その本質やそのほかの独創的で実験的な福祉については、日本ではまだ報道や研究が少ないのが実情です。たとえば、ノルウェーで推進しているダイバーシティ政策について。1988年に女性の社会参画を促すべく男女平等法が改定され、世界に先駆けて「クオータ制」が法的に定められました。これは、「公的委員会・審議会は4名以上で構成される場合、一方の性が全体の40%を下ってはならない」というもので、2004年から政府系企業の取締役会、2008年からは一般企業の取締役会でも罰則規定が設けられるという徹底ぶりです。 ノルウェーでは同時に、男性の育児休暇の義務化と、保育園の完全入園の実現にも積極的に取り組んでいます。女性の社会参画は、女性だけの問題ではありません。少子化対策や児童福祉、あるいは男性の労働環境と意識改革の問題と密接につながっています。 ノルウェーでは、1990年代の初頭から、こうした諸問題に対して組織の垣根を越えて、包括的に取り組んでいます。この例をひとつ取ってもわかりやすいのですが、ノルウェーのイノベーションの特徴は、ひとつの課題に対して「横軸」で連携できることです。これは「縦割り」の行政システムを持つ日本が、ノルウェーから学ぶべき最も大きな課題でしょう。たとえば、クオータ制については、日本では議論がはじまったばかりですが、これを単体で論じても、最終的な問題解決にはならないのは自明です。むしろ男性の働き方や家族との過ごし方が鍵になってきます。「女性の社会参画問題は、裏を返せば男性の家庭参画問題」でもあるわけです。その意味で、日本でこの課題を研究するならば、ノルウェーの男性の意識調査をするべきだ、というのが私の持論でもあります。過去に多くのノルウェー男性に、この問題を投げかけてきましたが、彼らの本音は、けっこう正直で面白いものです。まあ、その話は次の機会に譲るとして、今回はノルウェーが取り組む高齢化社会に対する新たな取り組みについてお伝えしたいと思います。 ノルウェーも、先進国の御多分に漏れず、高齢化が社会問題になりつつあります。そしてこの国は、高齢化対策の分野でも世界をリードしているのです。「グローバル エイジ ウオッチ指数」というのをご存知でしょうか?「グローバル エイジ ウォッチ指数」は、高齢者のための人権擁護団体「ヘルプ・エイジ・インターナショナル」が毎年発表する高齢者のランキングです。高齢者の収入や健康、雇用や教育など、高齢者の「生活の質」を独自の指数を用いて、国別で比較するというものです。言ってみれば「高齢者の住みやすい国」ランキングです。毎年、国連総会において世界高齢者デーに定められた10月1日に発表されるのですが、その2016年の最新ランキングで、ノルウェーが第1位になりました。今年度は、調査対象となった96カ国のうちノルウェーがランキング第1位で、2位がスウェーデン、スイス、カナダ、ドイツと続きます。ちなみにオフィシャルサイトはまだ更新されていませんが、日本は昨年の2015年のランキングでは8位でした。 参照元:Global AgeWatch Index 2015 公式(外部サイト) ノルウェーでは、この分野でも以前から社会的な取り組みがなされ、その努力がランキングに結びついたと言ってもいいでしょう。そして先ごろ、ノルウェー政府は、世界に先駆けて高齢化社会に向けた新たな戦略を発表し、それが話題になっています。この政策のねらいについて、ノルウェーのホイエ保健・ケアサービス大臣は「年齢を重ねることに関するネガティブな側面にとらわれることなく、何よりもポジティブな可能性に注目する。必要となるのは高齢者のアクティブな生活を促進し支える施策です」と、発言しています。またハイバルグ前副大臣は「シニア層の多くは職場や社会、政治の世界に疎外感を感じていますが、その偏見を取り払い、高齢者にやさしい社会をつくります」と語っています。ちなみに、ハイバルグ前副大臣は2015年の夏に来日し、日本における高齢化社会の現状と取り組みを視察しています。その戦略の詳細がweb上で発表されていますので、注目すべき点を補足いたします。 「More Years – More... ...
On 2016年12月9日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 43回目を迎えた国際福祉機器展を訪れた。毎回大きな盛り上がりを見せる国内最大級の福祉イベントは、今回はとくにモビリティ分野に大きな注目が集まっていた。とりわけ福祉車両への期待と関心は高く、各自動車メーカーのブースには、連日多くの来場者が集まり、熱心に展示車両の機能、使い勝手などを確認していた。ここでは各メーカーのブースをリポートする。 日本は福祉車両先進国といわれるが、近年はリリースされる多くのニューモデルで、発売時から多様な福祉車両が設定されるなど、さらなる充実ぶりを見せている。 標準モデルが、開発段階の初期から福祉仕様を想定しているなど、ハイレベルな使い勝手やスペース効率を誇るモデルが増えている。また、低燃費をはじめとするエコ性能や自動ブレーキに代表されるセーフティ機能といった進化は、福祉車両にも大きな恩恵をもたらしている。「特別なクルマ」ということを過度に意識をさせない、「普通に乗れて、福祉機能があるクルマ」というイメージを抱かせるモデルも増えているように感じた。 トヨタ: トヨタブースでは、車いすでの乗り込みがスムーズなシエンタや座り込みが容易なスペイドが、使い勝手のよさをアピールし、プリウスは車いす収納機能がついたフレンドマチック(運転アシスト)仕様を展示。さらに車いすの大型化や多人数乗車にも対応するハイエースやレジアスエースの車いす仕様車、純正のフレンドリー用品、オリジナル車いす「ウェルチェア」など、充実の展示内容が印象的だった。 ドライバー自身がひとりで車内へ乗り込み、車いすを電動でルーフ上に収納することができる「ウェルキャリー」は大きな注目を集めていた。 後輪エアサスペンションの車高降下機能が、9.5度というなだらかなスロープ角度を実現。サイズを超えた機能性が、実際に来場者から好評を博した。 ホンダ: 発売されたばかりの新型「FREED(フリード)」、「FREED+(フリード プラス)」が主役。車いす仕様とサイドリフトアップシート仕様などを展示して大きな注目を集めていた。また、自ら運転する喜びをについてもこだわるホンダらしく、「Honda・テックマチックシステム (手動運転補助装置)」と「Honda・フランツシステム(足動運転補助装置)」が装着されたフィット ハイブリッドで、作動をたしかめる来場者の姿が多く見られ、軽自動車の福祉車両として人気の高いN-BOX +も注目を集めていた。 「Honda歩行アシスト」の体験展示も行われた。ヒューマノイドロボットASIMOで培われた歩行理論を活用したこの歩行訓練機器は、注目度抜群で、多くの人が体験歩行を行い、驚きと喜びの表情を顔に浮かべていた。 Honda関連会社の八千代工業株式会社に所属し、リオデジャネイロ・パラリンピックに出場。同大会の車いすマラソンで、「1秒差で4位」という激しいレースを戦った土田和歌子選手とモータージャーナリストのまるも亜希子さんによるトークショーも行われた。 日産:... ...
On 2016年12月8日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 成長するイベントのテーマは高齢者の自立 ドイツ西部の文化、経済の一大中心地であるデュッセルドルフ。さまざまなアンケートなどで「住みやすい都市」と評価されるこの街は、訪れてみると実際に落ち着いた佇まいと静寂さが心地よい。日本企業の多くが進出していることでも知られるが、近年は、欧州最大、世界有数という福祉機器展「REHACARE(リハケア)」でも知られている。 毎年開催されるREHACAREだが、障害のある方や介護する方のニーズに対応したリハビリテーションや機器、製品についての充実したプレゼンテーションに加えて、2016年は、「高齢者の自立」をサポートすることが、大きなテーマとなっていた。ヨーロッパでも一部の地域を除いて、高齢化は今日大きな社会問題となっている。そのため福祉に対する意識も年々高まりを見せているという。 身体が不自由な方や介護が必要な方、さらには自分の思うままに人生を送りたいと願う高齢者にとって、「有益となる情報や補助が得られる場」の提供を目指したという今回のREHACAREだが、36カ国から916社が出展し、4日間の日程で来場者数が4万9300人に達するなど、過去39年の歴史のなかでも最高の盛り上がりを見せた。 広い会場では、日常生活に役立つ便利なアドバイスから、最先端のモビリティアイテムや在宅ケアシステムのデモンストレーションまで、多彩なプレゼンテーションが行われ、来場者の多くは足を止めて熱心に聞き入っていた。パンフレットに真剣に目を通す方、実際に機器を試している方など、イベント全体に熱気が漂っていた。そして来場者だけでなく、出展した企業や団体もREHACAREに大きな手ごたえを感じているようだ。出展者に行ったアンケートの結果、90%を超える出店者がイベントに「満足」を示し、83%は実際に商談が良好に行われたと解答、88%はイベント後のフォローアップに期待が持てるとしている。数字からも、年々規模を拡大するメジャーイベントの勢いが感じられる。 日本の福祉機器展と比べ、車いすでの来場者の割合が高いようだが、広い会場は通路にもゆとりがあり、整然と快適に見てまわれる。また、来場者同士、メーカースタッフなどとのコミュニケーションも積極的に交わされている印象だ。 メーカーのブースだけでなく、スポーツのデモンストレーションも行われていた。ドイツでは障害者スポーツの人気は高く、車いすバスケの会場では大きな歓声が上がっていた。 「華麗なるギャッツビー」仕様にカスタマイズされた電動車いす。 福祉車両、日本とヨーロッパの違い 総合的な福祉機器展であるREHACAREだが、なかでも「モビリティ(移動)」に関する出展は多く、会場でも大きな存在感を放っていた。ところで、各ブースをくまなく歩いてみて、福祉車両について、日本とヨーロッパで大きな違いがあることに気づかされた。 それは、日本の福祉車両は、自動車メーカーの多くが「完成車」として、充実したラインアップの福祉車両の販売を行っているのに対して、ヨーロッパでは、アフターパーツが数多く販売され、今乗るクルマを「福祉車両にカスタムする」というのが一般的であるということ。展示会場を歩いても、福祉車両用の機器を扱うメーカーが数多く出展している。自動車メーカー自身が、広々としたスペースに自前の福祉車両(完成車)を数多く並べて展示する日本とは少し異なるスタイルと言えるだろう。 自動車メーカーが開発段階から「福祉車両を念頭に設計」することで、よりハイレベルな機能や使い勝手が期待できるのが日本式のいいところ。ヨーロッパは、自分の乗っているクルマ、好きなクルマに、福祉機能を持つパーツを随時取り付ける、というスタイルが特徴となっているようだ。気になるアタッチメントが自分の車に対応しているかを問い合わせる人の姿も多く目にした。 東京の「国際福祉機器展」や大阪の「バリアフリー展」を訪れて感じるのは、福祉車両、福祉機器が洗練されていてクオリティが高いこと。一方、デュッセルドルフの「REHACARE」会場では、多くの独創的な製品に目が止まった。最後に、その中から気になったブースやアイテムを紹介する。 700カ所以上の販売店を持つカーアダプテーションの大手、ドイツのアウトアダプト(Autoadapt)のブース。メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンなどの国内メーカー、欧州ブランドのモデルに対してのさまざまなニーズに対応するカスタマイズサービスを提案していた。 車両後方のスロープが主流の日本と異なり、ヨーロッパの福祉車両は、車両の真横から乗り込む「サイドスロープ」タイプが多い。写真はメルセデス・ベンツブースに展示されていたVクラスの福祉車両。 前方に伸びるタラップにより、車いすに座ったまま乗り込むことができるチェコのマイクロカー「エルビー(Elbee)」。運転操作は手だけで簡単に行え、最高速度は時速80㎞。都市部でのモビリティを想定している。 セグウェイの技術により、操作性と機動性に優れ、オフロード走行も可能な2輪タイプの電動車いすが、スイスの「ジェニー(Genny)」。 カーボン複合材のバネ装置「ループホイール(Loopwheels)」は、従来のスポークの代わりになるだけでなく、サスペンションのように緩衝機能を持ち、滑らかな乗り心地と高い快適性、そしてファッション性で注目を集めていた。... ...
On 2016年12月8日 / By wpmaster© 2016-2020 Believe Japan, Inc. All rights reserved.