文と写真●Believe Japan 寒さを吹き飛ばすような熱気が沸き立つイベントが、12月7日(土)に川崎のCLUB CITTA’(クラブチッタ)で開催された。自動車教習所のコヤマドライビングスクールが主催する、チャリティー手話ライブ「D’LIVE(ドライブ)」だ。今回で16回目となるこの手話ライブは、毎回発売直後にチケットが完売するという人気を誇るイベント。 デフ(聴覚障がい者)のソロアーティスト、またはデフメンバーがいるグループによる渾身のパフォーマンスが披露され、満員の会場は興奮と熱気に包まれた。音楽にあわせたダイナミックで華麗な手話歌や、エネルギッシュなダンスパフォーマンスが迫力ある音響と多彩なライティングによって生き生きと演じられた2時間半。今回は「コスプレ」が手話とダンスに融合し、アニメの世界観を表現するアーティストも新たに参加し、盛り上がりも最高潮に。「手話」がどれほど感情や情熱を伝えることができるかを、今年も見事に証明して見せた。 なぜ手話ライブを主催するのか? 日本で初めて外国人教習や障がい者教習(手話教習や特殊装置付き車両での教習)などに取り組み、施設面でもバリアフリー対策を積極的に進めているコヤマドライビングスクール。2000年から手話での教習について研究を始めたが、その後、手話を学びたいというスタッフが増え、現在、5校合わせて100名を超す手話対応インストラクターが在籍する。この「D’LIVE」もインストラクターからの発案を受けてスタートしたという。 コヤマドライビングスクールでは、このイベントを「純粋にパフォーマンスの質の高さ、素晴らしさを多くのひとに知ってもらいたい、手話に興味を持ってもらいたい」との想いで開催しているという。近年、イベントやライブで手話通訳が増えているが、D’LIVEは、聴覚障がいを持つひとを「観客」ではなく、集まった観衆をパフォーマンスで魅了する「演者」としてステージに引き上げているのだ。数多ある福祉イベントではなく、純粋なエンターテイメントとして成立していることに大きな意義がある。 20にのぼる高校・大学の手話サークルが協力し、15に上る企業・団体が協賛、後援するなど、運営サイドも年々広がりを見せるこのイベント。インストラクターと共に多くの学生が場内案内やバックステージの手伝い、手話通訳のスタッフとして生き生きと活動していた。また観客席には、ろう者だけでなく健常者の若者も多く来場していたが、今回のイベントが手話に興味を抱くきっかけとなり、両者のコミュニケーションが今まで以上の広がりを見せてくれたら、これほど素晴らしいことはないだろう。 ...
On 2019年12月9日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 日本の福祉車両は年々改良されて使い勝手がよくなり、ラインアップの拡充も著しいが、パーソナルモビリティの意識が高いヨーロッパではどのような状況なのだろうか。現地を訪れ、感じた事をまとめてみた。 「後付け」、「改造」が基本 日本の自動車メーカーは、今日ミニバンから軽自動車まで、さまざまな車種で福祉車両を設定している。一方、ヨーロッパでは一部のメーカーを除いて、純正の福祉車両はあまり見当たらない。自動車メーカーのホームページを見ても、ほとんど設定がない状況だ。 しかし高度なクルマ社会のヨーロッパは、実際に訪れると身体の不自由な方の多くが日常的にクルマ移動していることがわかる。そして、そのなかでも自ら運転するタイプの車両が多い印象を受ける。メーカー純正の福祉車両が充実している日本とは異なり、ヨーロッパでは自動車メーカーに加え、福祉装置メーカーと福祉車両の架装会社が大きな役割を果たしているのが特徴だ。 自動車メーカーが生産した一般車両をベースに、福祉装置メーカーは装備する機器に加え、乗り降りや運転補助のシステム全体を開発していることが多い。ユーザーは福祉車両の架装会社を訪れ、現在乗っている車両の福祉車両化や新たに購入したいモデルをもとに、必要な福祉機能や取り付ける装備などを相談するのが一般的だ。 このヨーロッパスタイルの優れた点としては、「モデル選択の自由」が挙げられる。自分のライフスタイルにジャストフィットする車両に、必要最小限の改良、改造で仕上げていくのだ。こうした特性の背景は、いかにも合理性を重んじるヨーロッパの文化らしい。これは結果的にコストの節約にもつながっている。近年、日本でも後付けのシステムによる福祉車両が注目を集めている。とくに「好みのモデルに乗りたい」、「輸入車に乗りたい」というユーザーにとっては歓迎すべき傾向だ。 自動車メーカーの福祉車両 日本では主流となる自動車メーカー「純正」の福祉車両は、ヨーロッパでは少数派。モデルラインアップしているのは、これまでフォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツ、フォード、オペルなど少数だった。しかし独自開発だけでなく、福祉車両架装会社などが手がけるモデルも含めて、自動車メーカーから販売される福祉車両は確実に増えている。 ハノーファーで行われた世界最大規模の国際商用車展IAA 2018のフォードブースで展示されていたミニバン、フォード トルネオ・コネクトのスロープ車。架装全般を担うのは福祉車両専門の装置メーカーMobilTec(モービルテック)だ。 MobilTec販売部門の責任者フィッリップ ハメルさんは、ヨーロッパの福祉車両の特徴として「手動」であることを挙げた。「日本では車いすの乗り降りが電動でアシストされているようですが、ヨーロッパではほとんどが手動です。スロープの傾斜がゆるく、介護者の体力がある程度あれば、手動の方が速やかに乗り降りでき、メンテナンスの不安も少ないですから」と説明する。 こちらも国際商用車展IAA 2018に展示されていたフォルクスワーゲン キャディ・マキシの福祉車両。スロープ車で、架装はFOCACCIA... ...
On 2019年1月25日 / By wpmaster「言葉を交わす」ことだけがコミュニケーションではないと信じています Believerとは? 福祉分野を中心に活動する「明日を信じて今日を前向きに生きる」ひとたち「Believer」を紹介するコーナー。 文●Believe Japan 写真●Believe Japan、HandmadeCreative コミュニケーションとしてのアート表現や、手話をテーマにした創作活動を国内外で行う門 秀彦(かど ひでひこ) さん。「ハンドトーク(HAND TALK)」をコンセプトに、「絵描き」として絵画作品や絵本を制作するほか、ミュージシャンとのライブペインティングや巨大なキャンバスにみんなで一緒に絵を描く「らくがきワークショップ」などを精力的に行う氏に、自身の活動についての想いを語っていただいた。 イラスト、グラフィックデザイン、ライブペインティングと多彩にご活躍されていますが、門さんが絵を描きはじめたきっかけは何だったのでしょうか? 僕は両親とも耳が不自由でしたので、コミュニケーションの手段として、幼い頃から手話をフォローするように「絵」を描いてきました。ビジュアルの方が手っ取り早かったり、描かないとどうしても伝えられないことがあったので、筆談のように絵を描いては見せていたんですね。その日学校であった出来事などを描くのですが、両親はいつも、僕が描き終わるのを静かに待っていてくれました。おかげで僕にとっては、「絵を描く」ということが、自分の「想い」をほかのひとに伝える手段として自然なものとなっていったのです。 よく小学校の図画工作の授業で、時間の都合で「今日はここまで、続きは次回に」となるのですが、普段から絵を描くことに慣れていた僕にはそれがまどろっこしくて、いつも最初の時間に2つほど描き上げていました。それでホッとして休んでいると、先生からよく注意され、成績はよくありませんでした(笑)。ですが、展覧会などでは賞をもらったりしていました。 作品では、絵の中に「手話」が描かれていますが、それはいつ頃からでしょうか? 僕が20歳のとき、長崎の目抜き通りにある店舗で改築工事が行われることになりました。そして、工事期間中、あまりに殺風景で街の美観を損ねるという理由から、壁一面に絵を描こうということになりました。最初、知り合いが依頼されたのですが都合がつかず、僕が紹介されました。... ...
On 2018年3月15日 / By wpmasterホンダの歩行訓練機器「Honda 歩行アシスト」が、このほど欧州の「医療機器指令(MDD:Medical Device Directive)」の認証を取得した。これによって、EU域内で事業展開が可能になる。 欧州では、EU(欧州連合)域内で製品を流通・販売するために、製品をEUの定めた基準(EU指令)に適合させるとともに、それを示す適合マーク「CEマーキング」を製品に表示する義務がある。 「Honda 歩行アシスト」はすでに、国際規格「ISO 13482」の認定を取得しているが、今回の欧州での認証は日本でISO認証を担当する一般財団法人日本品質保証機構(JQA)と、ドイツの「TUV NORD CERT GmbH」が連携して認証された初めての医療機器指令認証となる。「TUV(テュフ)」は、ドイツ ハノーバーに本社を置き、世界 約70カ国・地域に展開する国際的第三者認証機関で、基準の厳格さで知られる。 長年にわたる研究の成果 ホンダは遡ること1999年から、ヒューマノイドロボット「ASIMO」で培った歩行理論をもとに歩行アシストの研究を開始している。この歩行アシストは、2015年11月からは日本国内の法人向けに歩行訓練機器としてリース販売を行っている。これまでに全国およそ250の施設に導入され、歩行訓練や歩行能力の計測などに利用されているという。 「Honda 歩行アシスト」は、二足歩行理論(倒立振子モデル)に基づいた「効率的な歩行を誘導」する機能を持ち、歩行訓練で効果を発揮する機器として大きな期待と注目を集めている。 ... ...
On 2018年1月20日 / By wpmasterパーソナルモビリティブランド「WHILL」の電動車いすは、洗練されたデザインや手軽な操作性、優れた走行性能で高い人気を集めているが、それは日本だけには止まらぬようだ。 このほどアメリカのネバダ州ラスベガスで開催された、コンシューマエレクトロニクス(家庭用電気機械器具)分野で世界最大級の見本市となる「CES 2018」において、WHILLの電動車いすが「Best of Innovation Award(ベストオブイノベーションアワード)」を受賞した。選ばれたのは、日本で2017年にリリースされている電動車いす「WHILL Model C(ウィル モデル シー)」の米国向けモデル「WHILL Model Ci(ウィル モデル シーアイ)」。革新的なデザインや操作性、小まわり性能、iPhoneアプリによる遠隔操作機能、さらにカスタマーサービスに「IoT」を活用した点などが高く評価されたという。ここではModel Cの魅力を改めて紹介する。 WHILL Model C WHILLはModel... ...
On 2018年1月9日 / By wpmasterブリヂストンは高齢者に向けた画期的な「歩行トレーニング装置」を東京医科歯科大学と共同で開発し、2018年から実用化に向けた実証試験を開始すると発表した。 この装置は、体に装着した「空気圧式ゴム人工筋肉」が歩行動作をアシストするというもので、高齢者の健康増進、体力向上を目的としたトレーニングに有効とされている。 アシスト量が大きく、状況に応じて柔らかく動かすこともできる「人工筋肉」は、東京工業大学とブリヂストンが共同で開発したもので、それに東京医科歯科大学生体材料工学研究所の川嶋健嗣教授が開発した「システム制御技術」が組み合わされる。積極的な産学協同の研究が成果を出したものとしても注目に値する。 この歩行トレーニング装置に使われるのは、空気圧式ゴムによる人工筋肉で「マッキベン型」と呼ばれ、ゴムチューブとその周囲の繊維を筒状に組み上げた補強層から構成される。ゴムチューブの中の空気を加減圧することによって伸縮し、ヒトの筋肉のような動きを可能にするもので、ブリヂストンが長年タイヤやホースの開発で培ってきたゴムや補強繊維の技術が応用されている。人工筋肉は油圧で動作し、従来の電気モーターなどと比べて、5~10倍の「パワー/自重比」を誇る。 また、耐久性が高いゴムは耐衝撃性と耐振動性にも優れ、なめらかな動きを実現する。コンパクトで省エネという長所も持ち合わせ、ユーザーの体への負担も小さく、快適性の高いトレーニング装置をつくることができるという。 人工筋肉は人間の筋肉のように、大きな力が出せ、かつ作業に応じて柔軟に動くことができる。 ...
On 2017年12月29日 / By wpmaster前からではなく、後ろから乗り込むことで、ユーザーは身体の向きを変えることなく、ベッドやいす、トイレなどへの移乗がスムーズにできる。そんな画期的なアイデアで作られた「乗れるロボット」が、このほど登場した。 これまで車いすへの乗り移りは、前から「後ろ向きになりながら」座席に腰をおろすタイプが一般的だが、ロボットメーカーのテムザック(福岡県)が開発・製造した「RODEM(ロデム)」は、後ろから「前向きのままで」乗り込むタイプ。急増する車いすの転倒事故の防止にもなり、またユーザーが前傾姿勢となることで、気持ちも前向きになるという注目のモビリティだ。 これまでの車いすの概念を覆す「後ろから」乗り込むモビリティ。 スムーズな乗り降りと自然な姿勢でユーザーの生活に溶け込むように設計されたRODEM。 高さが変わることで出会える世界 さらに、使う家具や家電に合わせてシートの高さを素早く自在に調節(400~785mm)できる。 そのため、ユーザーは洗面や食事、家事などを身体に負担が少ない姿勢で行える。本体は生活防水仕様にもなっている。 また、立っている人と目線を合わせての自然な会話もできるようになる。「乗るだけで明るく楽しい気分になれるように」と考えられており、ユーザーの精神面にポジティブな影響を与えてくれることも期待される。 日常生活をサポートする高い機能性 「ロボット、乗り物、車いす」の3つの役割を1台で可能にするRODEMの操作は、ジョイスティックで手軽に行える。乗っていないときには、Bluetoothを介してスマートフォンで遠隔操作し、呼び寄せたり収納することもできる。最高速度は6km/h。4輪駆動で狭い場所での旋回性にも優れ、屋外、屋内を問わない使い勝手が魅力だ。 スマートフォンで操作できる機能は、自宅はもちろん、飲食店などでの収納や呼び寄せにも便利だ。 充電は家庭用100Vにプラグイン方式に対応し、充電時間は8時間となっている。 ... ...
On 2017年12月19日 / By wpmasterダイハツは、スマートフォンアプリのデイサービス向け送迎支援システム「らくぴた送迎」を開発した。 現在介護事業所では、利用者の送迎時に多人数乗車ができる大型車両を導入しているケースが多い。これは「一筆書き送迎」と呼ばれ、1台の大型送迎車が施設利用者の家を次々に訪問し、いちどにまとめて介護施設まで運ぶという方式だ。これは一見効率がよさそうに思えるが、実際は大型車両を運転できるドライバーの確保や車両コストの高さ、狭い路地への入りにくさなど、さまざまな問題も抱えている。 なにより利用者は送迎車に乗り込んでも、ほかの利用者の家を次々と経由してから施設に向かうため乗車時間が長くなり、それが大きな負担になっているという。しかしながら軽自動車のような少人数乗車の車両を複数台導入すると、より緻密な運行管理を行う必要があり、今度は担当者の負担が大きくなるという問題があった。 これらの悩みを一挙に解決すると期待されるのが、今回ダイハツが開発した「らくぴた送迎」。これは、「送迎前」「送迎中」「送迎後」の3つのシーンで、送迎業務をサポートするシステムだ。 送迎前 「送迎前」に車両情報と利用者情報を登録すると、最適なルートを表示してくれ、送迎計画の作成はもちろん、計画書の修正、コピーもワンタッチでできる。また相性のよくない利用者同士の同乗を避けるための「相性アラート」も導入するなど、現場の声に寄り添った機能が充実している。 施設のパソコン画面。迎えに行く施設利用者の情報がリスティングされる。 次に今回の送迎に適した車両を確認して選択することができる。 送迎の最適なルートは、ドライバーのスマートフォンにも表示される。 送迎中 「送迎中」は、施設のパソコンとドライバーのスマートフォンが連携し、施設からはドライバーの位置が地図上で確認できる。さらに利用者の急なキャンセル情報の共有や、ひとつ前の地点を出発する際、次の地点の利用者に自動電話を掛けるお知らせ機能なども設定できる。 施設のパソコン画面。ドライバーの現在位置が表示される。 次に迎えに行く地利用者に自動電話を掛ける機能がある。事前に予告することで、待機時間などロスを減らすことができる。また利用者の急なキャンセルなどの情報は速やかに反映され、最適に修正されたルートが表示される。 ... ...
On 2017年12月3日 / By wpmaster近年、交通機関や施設、建物でのバリアフリー化が進んでいるが、まだまだ歩行が困難な方は日常生活の中で移動が「制限されている」と感じることがあるだろう。福祉機器も多様化しているが、ユーザーそれぞれの身体状況や使用環境をさらに深く理解して開発するなど、まだ大いにレベルアップする余地はあるに違いない。しかし、福祉関連では商品化するために必要な許認可の取得も容易ではなく、さらにマーケット規模が十分ではないこともあり、小規模事業者の参入には困難が伴うとされている。 そのような現状を少しでも改善するべく、トヨタはこのほど下肢麻痺の方が使用する補装具の開発を支援する基金「モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ」を発足した。これは「資金はないがグッドアイデアはある」というひとを支援して、補装具の開発における革新的なイノベーションを目指すというもの。また、多様なアイディアを持つイノベーターと、ユーザーである下肢麻痺の方とのコラボレーションを推進し、これまでにない形状や高い機能性を持つ補装具の開発に結びつけていく考えだ。人工知能による学習機能を搭載したり、クラウドコンピューティングを活用したり、さらには革新的なバッテリーの搭載も視野に入れている。 このモビリティ・アンリミテッド・チャレンジは、一般財団法人 「トヨタ・モビリティ基金(Toyota Mobility Foundation)」と英国国立科学技術芸術基金(National Endowment for Science, Technology and the Arts)のチャレンジ推進機関がパートナーシップを組み、コンテスト形式で開発支援資金が提供されるもので、支援総額は400万ドル(およそ4億5000万円、2017年11月現在)とされる。専門家からなる審査員によって選出された「5名のファイナリスト」には、アイディアを具現化するプロトタイプを制作するために「50万ドル(およそ5600万円)」、そして2020年に東京で発表される「最終優勝者」には補装具の完成へ向けて「100万ドル(およそ1億1200万円)」の支援が提供される。また、資金的な制約からプロジェクトへの参加が困難なイノベーターを支援するために、有望なアイディアを持つ10チームを対象に、当面の活動資金として「5万ドル(およそ560万円)」を支援していく。参加の応募は、公式サイトから行われる。 Toyota Mobility Foundation すべてのひとに公平なモビリティを提供するというユニバーサルデザインの原則から、プロジェクトで重視されるのはユーザーである下肢麻痺の方の「視点」や「ニーズ」とされている。モビリティ・アンリミテッド・チャレンジをとおして、トヨタは革新的なアイディアや技術を創造するチーム、個人を支援していくことで、下肢麻痺の方の自立した生活と移動の自由の実現に貢献していく考えだ。 トヨタ・モビリティ基金では「技術、デザイン、エンジニアリングなどすべての英知を活用し、下肢麻痺の方にとってアクセシビリティが高く、だれもが暮らしやすい社会の実現に向け、2020年夏までの約3年間の我々の挑戦がはじまりました。その解決策の実現のために、さまざまな人々と協力していきます」との声明を発表している。 ...
On 2017年11月20日 / By wpmaster脳にはそのひとの人生が詰まっています Believerとは? 福祉分野を中心に活動する「明日を信じて今日を前向きに生きる」ひとたち「Believer」を紹介するコーナー。 文と写真●Believe Japan 東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科の渡邉 修先生は、脳に障害を受けてしまった方が運転を再開することを助ける「自動車運転外来」を行なっている。外傷や腫瘍等が原因で脳の機能を一部失った方が、再度運転できるかどうかの判断をしたり、リハビリテーションをとおしての機能回復に取り組んでいる。渡邉先生に、活動に対する思いを聞いた。 リハビリテーションの研究に携わることになったきっかけを教えていただけますか? 最初、私は脳失血や脳出血、脳外傷などの患者さんを診る脳神経外科医でした。交通事故などで意識を失った状態で病院に運ばれてきた患者さんの場合は、手術をしたり、急性期(損傷が起きたばかり)の低体温療法などで治療をすると、たしかに命は助かり、身体的にも回復していきます。しかし、脳は非常にデリケートな組織なので、脳挫傷や脳出血が生じると、どうしても傷が残ります。うずらの卵ほどの小さな傷ですと、回復の後、支障なく日常生活が送れるのですが、にわとりの卵ほどの損傷となりますと、ほとんどの場合、後遺症が出てしまいます。すると、その方は、「命は助かったけれど、社会に戻っていけるのか……」ということが問題となってきます。なんとか「救命」されても、「救脳」はされないということです。そうなると、患者さんだけでなく、家族の方も社会的に孤立していってしまいます。「ウチの息子を置いて先には死ねない」という親御さんにもたくさん出会ってきました。それは、もはや脳外科医に対応できることではありませんでした。 私が脳神経外科医だったころは、「高次脳機能」いわゆる認知能力のダメージについては、「それでおしまい、するべきことは無い」という風潮でした。医師も、患者さんや家族の方に「これで諦めてください」と伝えるしかありませんでした。それは、「命が助かっただけよかったじゃないですか」とも聞こえました。それでは患者さんとご家族は、社会から疎外されたままなのです。わたしはその現実に疑問を感じました。そして、患者さんが社会復帰、社会参加していけるようにするためのリハビリテーションに関心が向いていきました。ありがたいことに、そんな私を支援してくださる先生方がおりました。当時、私は浜松の病院にいたのですが、東京の慈恵医科大や研究会によく連れて行っていただきました。それが、リハビリ研究のスタートでした。 スウェーデンの病院で研究されておりましたが、北欧と日本とで、リハビリテーションに関する考え方の違いはあるのでしょうか? リハビリテーションを学ぶため、ストックホルムのカロリンスカ病院というところに勤務していたのですが、そこで印象的だったのは、いわゆる「患者さんファースト」という考え方ですね。日本でも最近は一般的になってきましたが、「患者の権利」と書かれたパンフレットが院内で最初に渡されるなど、とても新鮮な驚きでした。治療の意思決定なども、すべて患者さん中心で行われていました。また、当時のカロリンスカ病院では、患者さんが30分以上待たされると診察費が無料になるというルールがありまして、待合室で長く待たされるということはほとんどありませんでした。スウェーデンは人口が少ないこともありますが、病気や身体の不具合を抱えていらっしゃる方を待たせるということは、考えられない文化だったのですね。 また、私が参加していた脳疾患患者の家族会があるのですが、ご家族の方たちも、さまざまな意思決定は「患者本人を中心にすすめていきたい」という意見がほとんどでした。さらに、国が支援している大企業では、それぞれの状態に合わせた仕事が用意されていました。「計算は苦手だが絵を描くことはできる」など、自分の障害に合わせた仕事によって収入を得るという考えが国全体で共有されているのです。自立や社会復帰などが重要視されているのですが、これは患者さん個人やご家族の幸福にもつながると思います。それこそが本当の意味での「患者中心の医療」なのだと深く思わされました。 また、当時、私の息子が日曜日に小児の感染症である猩紅熱(しょうこうねつ)にかかってしまい、病院に連れて行ったのですが、医師が診察室を出て、廊下で待つわれわれのところまで歩いてきて、握手をしながら「わたしがお子さんを拝見させてもらいます」と挨拶をしたのでした。そこである種、患者さんと医師の間に「契約」が成立して「治療」がはじまるという流れでした。それは本当は当たり前のことなのかもしれませんが、当時の私は大きな衝撃を受けました。以来、日本に戻ってきてからも、自分で立ち上がって患者さんにご挨拶に行き、診察室に招き迎えるということを行わせていただいています。おかげで、とてもよいことがあります。招きいれるということで、そのときの患者さんの歩行状況をつぶさに見ることができるのです。カルテに目をやりながら「どうぞ」というのとは違って、私の診察はすでにはじまっているのです。... ...
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