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リハビリテーション科 医学博士 渡邉 修 氏

By wpmaster · On 2017年10月25日

脳にはそのひとの人生が詰まっています

 

Believerとは?

福祉分野を中心に活動する「明日を信じて今日を前向きに生きる」ひとたち「Believer」を紹介するコーナー。

文と写真●Believe Japan

 

 東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科の渡邉 修先生は、脳に障害を受けてしまった方が運転を再開することを助ける「自動車運転外来」を行なっている。外傷や腫瘍等が原因で脳の機能を一部失った方が、再度運転できるかどうかの判断をしたり、リハビリテーションをとおしての機能回復に取り組んでいる。渡邉先生に、活動に対する思いを聞いた。

 

リハビリテーションの研究に携わることになったきっかけを教えていただけますか?

 最初、私は脳失血や脳出血、脳外傷などの患者さんを診る脳神経外科医でした。交通事故などで意識を失った状態で病院に運ばれてきた患者さんの場合は、手術をしたり、急性期(損傷が起きたばかり)の低体温療法などで治療をすると、たしかに命は助かり、身体的にも回復していきます。しかし、脳は非常にデリケートな組織なので、脳挫傷や脳出血が生じると、どうしても傷が残ります。うずらの卵ほどの小さな傷ですと、回復の後、支障なく日常生活が送れるのですが、にわとりの卵ほどの損傷となりますと、ほとんどの場合、後遺症が出てしまいます。すると、その方は、「命は助かったけれど、社会に戻っていけるのか……」ということが問題となってきます。なんとか「救命」されても、「救脳」はされないということです。そうなると、患者さんだけでなく、家族の方も社会的に孤立していってしまいます。「ウチの息子を置いて先には死ねない」という親御さんにもたくさん出会ってきました。それは、もはや脳外科医に対応できることではありませんでした。

 

 私が脳神経外科医だったころは、「高次脳機能」いわゆる認知能力のダメージについては、「それでおしまい、するべきことは無い」という風潮でした。医師も、患者さんや家族の方に「これで諦めてください」と伝えるしかありませんでした。それは、「命が助かっただけよかったじゃないですか」とも聞こえました。それでは患者さんとご家族は、社会から疎外されたままなのです。わたしはその現実に疑問を感じました。そして、患者さんが社会復帰、社会参加していけるようにするためのリハビリテーションに関心が向いていきました。ありがたいことに、そんな私を支援してくださる先生方がおりました。当時、私は浜松の病院にいたのですが、東京の慈恵医科大や研究会によく連れて行っていただきました。それが、リハビリ研究のスタートでした。

 

スウェーデンの病院で研究されておりましたが、北欧と日本とで、リハビリテーションに関する考え方の違いはあるのでしょうか?

 リハビリテーションを学ぶため、ストックホルムのカロリンスカ病院というところに勤務していたのですが、そこで印象的だったのは、いわゆる「患者さんファースト」という考え方ですね。日本でも最近は一般的になってきましたが、「患者の権利」と書かれたパンフレットが院内で最初に渡されるなど、とても新鮮な驚きでした。治療の意思決定なども、すべて患者さん中心で行われていました。また、当時のカロリンスカ病院では、患者さんが30分以上待たされると診察費が無料になるというルールがありまして、待合室で長く待たされるということはほとんどありませんでした。スウェーデンは人口が少ないこともありますが、病気や身体の不具合を抱えていらっしゃる方を待たせるということは、考えられない文化だったのですね。

 

 また、私が参加していた脳疾患患者の家族会があるのですが、ご家族の方たちも、さまざまな意思決定は「患者本人を中心にすすめていきたい」という意見がほとんどでした。さらに、国が支援している大企業では、それぞれの状態に合わせた仕事が用意されていました。「計算は苦手だが絵を描くことはできる」など、自分の障害に合わせた仕事によって収入を得るという考えが国全体で共有されているのです。自立や社会復帰などが重要視されているのですが、これは患者さん個人やご家族の幸福にもつながると思います。それこそが本当の意味での「患者中心の医療」なのだと深く思わされました。

 また、当時、私の息子が日曜日に小児の感染症である猩紅熱(しょうこうねつ)にかかってしまい、病院に連れて行ったのですが、医師が診察室を出て、廊下で待つわれわれのところまで歩いてきて、握手をしながら「わたしがお子さんを拝見させてもらいます」と挨拶をしたのでした。そこである種、患者さんと医師の間に「契約」が成立して「治療」がはじまるという流れでした。それは本当は当たり前のことなのかもしれませんが、当時の私は大きな衝撃を受けました。以来、日本に戻ってきてからも、自分で立ち上がって患者さんにご挨拶に行き、診察室に招き迎えるということを行わせていただいています。おかげで、とてもよいことがあります。招きいれるということで、そのときの患者さんの歩行状況をつぶさに見ることができるのです。カルテに目をやりながら「どうぞ」というのとは違って、私の診察はすでにはじまっているのです。

 

先生が実践されているのは、認知リハビリテーションですが、それはどのようなものでしょうか?

 医療はさまざまに進化しております。破壊や損傷を受けた脳細胞を人工的に作り出すような研究も行われています。しかし、残念ながら現段階で「特効薬」というものは存在しません。脳はほかの臓器と比べると非常に複雑で「そのひとの人生が詰まっている」最高中枢であるわけです。運動機能などはマヒしてもそのひとの人格が問題となることはないでしょう。そして、機能を復活させるための方法もいくつか確立されています。ところが、注意力や集中力、または記憶力、性格などという認知能力となると話は別です。われわれはサルから人間へと進化したとき、前頭葉が大きく膨れ上がって社会性を帯びていったわけなのですが、とくに前頭葉はあまりに高次な臓器なので、簡単に治すことが非常に困難なのです。認知リハビリテーションでは、薬も使うのですが、手術をするなどの治療はなかなかできないのが現状です。アメリカや日本の病院の一部では、パーキンソン病の患者さんの脳に電極を埋め込む治療(脳深部刺激療法)などが行われていますが、まだまだ課題は多いですね。

 私が学び、実践しているのは、患者さんとご家族を取り囲む病院、医師などさまざまな職種が包括的に一体となって、サポートしていくという支援体制です。そうすることで、患者さんの脳が徐々に再編されて、機能の改善につながっていくという証拠があります。それが、現状ではもっとも「納得ができる」方法であり、手ごたえもあります。また、それがいちばん自然であるとも考えています。幸いにして人間の生体は非常によくできていて、損傷してからもまた回復し、もう一度つくり直していこうとする機能があるのです。たとえば、手をちょっと切っても、すぐに傷口はふさがるものですが、脳も同じなのです。ただ、「こうすれば治る」というようなものはありません。関わる人間すべてが、粘り強く向き合っていくことが求められています。
 クルマを運転するためには、高度な認知能力が必要です。そして、それはつねにさまざまな判断をし、ルールを遵守するという非常に社会性のある行動です。そういう考えで「自動車運転外来」も行わせていただいています。

 

病院の診療部長、大学の教授などをされていることから、若い医師や将来の医師にご教授される機会が多いと思われます。そのときに心がけているのはどのようなことでしょうか?

 患者さんもご家族の方も、場合によっては遠いところから病院にいらしていただいています。そこで、私が若い医師や研究生に語るのは、医療の現場も「商売」であるということです。お客さまである患者さんたちに、「来てよかった」という充足感を得てもらえなければいけないと説明しています。また、われわれは「選ばれている」ということを自覚する必要があるということ。そして、「自分の家族のように診る」ということを必ず伝えています。患者さんとそのご家族に寄り添い、その方たちがどのような気持ちでいるのか、ということを十分に理解して接していくという姿勢が何より大切であると考えます。

 

 

 


第三回 渡邉 修(わたなべ しゅう)氏
 医学博士、日本脳神経外科学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医。東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科診療部長を務めながら、東京慈恵会医科大学教授として、日々、研究と後進の育成に精力的に取り組む。
 

自動車を再び運転するため 高次脳機能障害のリハビリテーション

Believerインタビューリハビリテーション医療福祉脳
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