文●Believe Japan 写真●Believe Japan、PARAVAN
ドイツのREHACARE(リハケア)会場を訪れて、福祉車両について感じるのが、日本と比べて「車いすユーザーが自分で運転する」タイプが多いということ。そんなわけで、車いすを使う方が、家族や多くのひとを乗せて自ら運転できる「PARAVAN(パラバン)」の福祉車両も関心を集めていた。これは車内に乗り込んだ電動車いすがそのまま運転席となるタイプで、車いすユーザーが介助を必要とせずに自由に運転できるものだ。今回展示されていたのはフォルクスワーゲン キャディだが、そのほかにもフォルクスワーゲンのT6やプジョートラべラー、メルセデス・ベンツ Vクラスなどの設定がある。
ドイツ南西部バーデン ヴュルテンベルク州にあるPARAVANは、身体の不自由な方のために、車両をはじめステアリングやブレーキシステム、車いすを開発、製造するメーカーだ。1997年以来、ヨーロッパ主要メーカーの車両をベースにした福祉車両を手がけ、その名が示すとおり、おもに商用バンをもとにした車両開発を行っている。
家族をドライブに連れて行けるクルマ
PARAVAN Caddy(パラバン キャディ)は、車両の横と後ろから車いすのまま乗り込めるフレキシビリティや運転の快適さに重点が置かれたモデルとなっている。ドライバーは簡単な操作で多彩なシートアレンジも行え、あらゆる家族構成、使用環境にも対応する。後席は折り畳みタイプで、障害物がない状態で車内をスムーズに移動できる。これまで歩行が困難な方のためのモビリティは、パーソナルタイプが主流で、ほとんどがサイズの小さなものだった。ところがバンタイプとすることで、これまで家族に乗せてもらっていた方が、今度は家族をドライブに連れて行けるようになるのだ。ユーザーからは、「家族を乗せて運転することが長年の夢だった」という喜びの声も届いているという。
下の写真は乗り込みの様子。車いすユーザー自身で、リヤの車高を下げ、ドアを開け、スロープを下ろし、車いすで車内に乗り込み、運転席に車いすを固定する、といった一連のプロセスをスムーズに行うことができる。
そんな「快適さ」に貢献するのがエアサスシステム。エアサスはボタン操作で車高を調整し、最低地上高もしっかりと確保できるため、段差のある場所でも問題なくアクセスできる。さらに、路面からの不快な振動やショックを吸収し、走行中の快適さも格段に向上する。
PARAVAN社のモデルは、国際基準のテストによって高い安全性が証明され、フォルクスワーゲンの品質テスト、安全テストもパスして推奨パートナーとして認められている。寒い状況でもエアサスシステムは良好に作動するよう作られ、クルマいすを車体につなぐ接続器「PARAVAN ドッキングステーション」も衝突テストで高い安全性が確認されている。
そんなPARAVANの福祉車両は、丁寧にて作業されて仕上げられる。
PARAVANモデルのため専用に開発された車いす「PR 50」は、クルマの座席としてEU全体で認証を取得する唯一の電動車いすだ。
安全、快適な運転をサポートするハイテク
操作系は高度にドライブ・バイ・ワイヤ化(電子制御)されている。スロットルやブレーキ、ステアリングの主要機能はリアルタイムで細かく制御され、ジョイスティックやリモコン、スマートフォン、ラップトップ、GPSなどの異なる入力デバイスにも対応する。
また、タッチディスプレイ(PARAVAN Touch)も快適な運転に大きく貢献する。ドアを開く、イグニッションをオンにする、方向指示器を左に出す……。以前はこれらの機能のために、特別な装置を取り付ける必要があり、また操作も複雑にならざるを得なかった。しかしこのクルマでは、スマートフォンで「PARAVAN Touch」アプリを開くだけで、さまざまな機能をコントロールパネルからタッチ操作できるようになっている。アプリは、すべてのiOSおよびAndroid搭載端末に対応し、最大100もの機能をプログラムすることができる。iPadやスマートウォッチにも対応し、「ドアを開けてリフトを下げる」という操作もワンタッチで行える。その便利さ、負担の少なさは計り知れない。
加えて音声認識(Paravan Voice Control)も組み合わせることで、操作の快適さはさらにアップする。エンジン始動、ドアオープン、ワイパー、クラクション……などなど、ボイスコントロールのサポートも素早く快適だ。両方のシステムは完全に同期され、協調して機能する。ちなみにベースとなるフォルクスワーゲン キャディの車両価格は3万ユーロほどだが、このPARAVAN Caddyは8万ユーロ(およそ1064万円、2017年11月現在)で販売される。
開発にも携わったヤン オーヴェさんは「乗り降りもですが、何よりも運転が簡単でとても楽しいです」と語る。
介助されて快適な乗り降りや移動ができる国内の福祉車両、そのレベルアップはめざましいものがある。だが、海を渡ったヨーロッパでは、介助の方の手を煩わせることなく、自由に移動できるモビリティに対する注目度が高いのが特徴だ。
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