文と写真●Believe Japan 2025/11/22(土)配信 日本最大の福祉機器展「H.C.R.(国際福祉機器展)」に今年も行ってきました! ここでは自動車部品メーカーのJATCOが開発した移乗機構付き車いすをレポートします。 世界各国の自動車メーカーに対し、主に自動変速機(AT)の開発・製造を手がけてきたパワートレイン専門メーカーであるJATCO(ジヤトコ)が、初めて福祉機器分野に本格参入する。その第一弾が、今回の福祉機器展に出展した移乗機構付き車いす「Lifmy(リフミィ)」である。介護の現場では、車いすやトイレなどへ移動してもらうため、ベッドに横たわる人を抱え上げて立たせるという動作が、肉体的にも精神的にも極めて大きな負担となる。Lifmyは、まさにこの課題に対する有力な解決策として注目を集めている。 移動の難関「立ち上がり」をしっかりサポート 被介護者の方の残存筋力を積極的に活用することを前提に「Lifmy」が立ち上がりをサポート、フレイル予防に貢献する。そして、立位が安定して筋肉の変動も少ないことから、ラクに姿勢を保持できる設計だ。また、利用者は残された筋力を日常的に活用することで、筋力や筋量が低下してしまう筋廃用や身体機能の低下を予防することもできる。JATCOはクルマの「走る技術」からひとを「支える技術」へと視点を広げ、精密制御・高品質管理のノウハウを福祉分野にも応用していく考えで、Lifmyは、介護されるひとと介護するひとの双方に寄り添い、移動の自由を支援する製品とされる。 使い方は簡単で、利用者はまずフットステップに足を乗せ、胸や脇のパッドに身体を預けて固定する。次に車輪をロックし、リモコンの「たつ」を押すことで、ゆっくりと立ち上がる。その後、両サイドのシート部を横にして「すわる」操作を行い、車いすに腰掛けた後に車輪ロックを解除し、移動を開始する。目的の場所に着いたら、再度車輪をロックし、リモコンの「たつ」で立ち上がらせ、「すわる」操作によって着座が完了する。 立ち上がりを科学する 「立ち上がりを科学することをテーマにしました」と語るのは、話を伺ったジヤトコ株式会社 介護機器事業室 プロフェッショナルスタッフ 津田聡彦さん。従来の機器は、被介助者の身体を抱えて、物のように持ち上げて移乗させるタイプだが、Lifmyは「立ち上がりたい」との本人の意思を自然なカタチでサポートすることがコンセプトになっている。また津田さんは「まだ残っている筋力を最大限に活かしながらラクに立ち上がれることを目指し、最も自然で負担の少ない立ち上がり時の身体の軌跡を再現しようとしています」と明かす。そのため、じつは立ち上がりのときと座る時の軌跡が異なっているという。立ち上がりの軌跡に沿って座ろうとすると、身体が後ろのほうに傾いて不安になる、といった体験者の声なども反映されている。 Lifmyは本体重量約27kgと軽量で、全長×全幅×全高が919mm×526mm×1021mmとコンパクトなサイズのLifmyは、入り組んだ施設内や、廊下・ドア周りなど家庭の狭い居住スペースでも取り回しが容易である。充電式リチウムイオン電池を搭載し、最大で約120回の移乗動作が可能とされる。また、身長140cm~170cm、体重75kg以下の利用者を対象としており、在宅・施設を問わず扱いやすい設計となっている。 単なる移動補助機器にとどまらず、自立支援と介助者の負担を軽減することを目指すLifmy。軽量設計やバッテリー稼働回数、幅広い対象利用者なども含め、現場導入のしやすさと安全性が追求されている。2026年初旬の発売が予定され、まずは介護施設向けに展開した後、医療・リハビリ分野への拡大も視野に入れている。また、JATCOの海外拠点に対して、その地域でのニーズや利用者の体格などについての情報集めも行なっているという。利用者の生活の質を支え、向上させることに直結する製品となり得るだろう。 ...
On 2025年11月22日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/11/18(火)配信 日本最大の福祉機器展「H.C.R.(国際福祉機器展)」に今年も行ってきました! ここでは自操式運転補助装置で有名なFUJICONが提案する、車いすユーザーがひとりで車いすの収納、運転ができる室内クレーン仕様車をレポートします。 福祉車両の運転補助装置を語るうえで、FUJICON(フジコン)の名を知らない人はいないだろう。ハンドコントロールレバーやステアリングノブなど、自操式運転補助装置の分野で開発と実装を続けてきた老舗メーカーは、今回ホンダ フリードをベースにした室内クレーン搭載モデルを出展した。 フリードはリヤが電動スライドドアとなっており、そこにアクセスできる車内収納用クレーンを装着。これは、車いすユーザーが介助の手を借りずに自分の力で車いすを車内に収め、運転できるようにするための装置だ。 車いすユーザーの「自分で積み、自分で走る」を実現 クレーンは、Bピラーの内側やルーフフレームにボルトで固定されるため、ユーザーの乗車姿勢や車種に合わせてアームの長さや角度を調整するオーダーメイドとなる。モーター駆動によって車いすを吊り上げる一方で、アームの回転操作は手動とし、軽量でシンプルな仕組みを実現している。最大引き上げ能力は最大30kgで、一般的な手動車いすであれば十分に対応可能だ。 実際の操作手順も明快。ユーザーは車いすで運転席横に進み、シートへ移乗。運転席後方に設置されたクレーンアームを外側へ回転させ、車いすをワイヤーフックで固定する。その後、リモコンのスイッチを押して電動モーターが車いすをゆっくりと吊り上げ、アームを室内側に回転させて収納。この一連の動作がひとりの力で、安全かつ短時間で完結するように設計されている。 従来、車いすを運転席から自力で収納するには、車いすを持ち上げて体の前を通して助手席側に置くタイプや、リフトで車いすを吊り上げて、ルーフ上部に設置された収納ボックスに収めるものなどがあった。ユーザーにとっては、車いすを自力で引き上げて横に移動させたり、大がかりな装置によってコストが高くなったり、また収納までに時間を要するなどの負担があった。今回のFUJICONの装置は、運転席の後ろへ自然かつ短時間で引き込む方法を模索。この商品が誕生した。 ヨーロッパでは以前から同様の室内リフト装置が存在するが、構造がやや大掛かりでコスト面でハードルが高いケースも多い。FUJICONの室内クレーンは、そうした海外製品に比べて小型・軽量・実用的で、日本のユーザーの生活環境に寄り添った提案として注目を集めそうだ。価格は32万円~。 運転席には、同社が長年改良してきた自操式運転補助装置が搭載されている。運転者の身体特性に応じて調整、レイアウトが可能で、操作時の負担を最小限に抑えながらも、「自分で運転している」という実感が持てるように設計されている。 少数精鋭のエンジニアを擁するフジオートは、1970年代から福祉車両の開発、改造に携わってきた国内有数の専門メーカー。FUJICONのブランド名のもと、ハンドコントロールをはじめアクセル・ブレーキ補助、スロットルモジュール、車いす昇降装置など、多岐にわたる製品を自社で設計、製造しており、各製品はすべて国内の道路交通法および車検基準に適合する形で開発されている。安全性と信頼性でユーザーから支持され、多数の納入実績を持つ。今回の室内クレーン搭載モデルは、長い経験を背景に「自分の力で移動したい」というユーザーの願いを現実的に叶える1台となっている。 ...
On 2025年11月18日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/11/10(月)配信 日本最大の福祉機器展「H.C.R.(国際福祉機器展)」に今年も行ってきました! ここではヤマハが長年開発し続けている手動車いすの電動化ユニット、その30周年を祝う特別展示と最新モデルをレポートします。 追い求めてきた車いすの電動化 二輪車をはじめ、マリン製品や産業用ロボットなどを製造するヤマハ発動機は、1995年から30年にわたって「手動車いすを電動化するユニット」の開発を続けており、後付け可能な簡易型電動車いすのカテゴリーを確立してきた。ブースでは、初代モデルから現在に至るまでの技術進化の軌跡を体系的に紹介。鉛バッテリーからリチウムイオン電池へ、アナログ制御からインテリジェント制御へと進化してきた過程がよくわかる内容だった。 ヤマハは今後「ユニット専業メーカー」へのシフトを明らかにしており、ほかの車いすメーカーとの供給パートナーシップを強化する方針を掲げている。そんなわけで、松永製作所、日進医療器、ミキなど大手メーカーをはじめ、ヤマハの電動化ユニットを採用する多くのメーカーが紹介されていた。来場者は各社のフレーム設計や装着アレンジを間近で確認できた。 そして、長年にわたる開発の集大成として登場したのが、簡易型アシスト「JWX-2」と、フル電動「JWG-1」という2つの電動化ユニットである。どちらも、ほとんどの手動車いすのフレームに装着可能で、利用者の身体機能や生活スタイルに応じて選択できる新しい移動ソリューションといえる。ブースではこれらの試乗体験も行われ、多くの来場者がその進化を実感していた。以下、それぞれを紹介する。 自力走行を活かすアシストタイプ「JWX-2」 利用者がハンドリムを操作し自走する力に応じてモーターがアシストを加えることで、坂道や段差での負担を軽減しつつ自然な操作感を維持するというアシストタイプの電動化ユニットが「JWX-2」である。下り坂では自動的にスピードを制御して安全性を確保し、横に傾いた道では左右輪のアシストレベルを自動で調整して車いすがまっすぐ進むよう補正する。さらに、片方の手や足での操作であっても安定した走行を可能にし、坂道や不整地でも平坦な道を走行しているかのような感覚を生み出す先進の制御技術を備えている。これにより、日常生活での移動負担を大幅に減らしつつ、身体機能の維持にも寄与する。 JWX-2が対象とするユーザーは、日常的に自力走行を維持したい高齢者や筋力低下が少ない人、屋外での移動が多く坂道や段差のある場所にもよく出かける人である。なお、2025年4月1日からは制度改正により、手動車いすから電動車いすへの買い替え時には、原則として簡易型電動アシスト車いすへの移行が推奨されることになった。これは、完全電動では自力操作の機会が減少し、身体機能の低下が懸念されることから、アシストタイプを標準仕様として健康寿命を延ばすねらいがある。 JWX-2のユニット重量は15.6kg(バッテリー含まず)で、耐荷重は130kg。1充電でのアシスト走行距離は36km(リチウムイオンバッテリー)で、価格は補装具費支給制度価格で41万2600円(税抜)となる。 完全自走で自由な移動を実現する「JWG-1」 一方、主要部分を大幅にアップデートした「JWG-1」は、ジョイスティック操作による完全自走を実現したフル電動タイプ。自力操作が困難な人でも独立した移動が可能であり、ほとんどの手動車いすフレームに装着可能。生活スタイルに合わせたカスタマイズにも対応している。 ジョイスティックを中央に戻すと停止する電磁ブレーキを採用し、坂道などでも安心して操作できる。また、専用ソフトによりスピードや感度などを細かく調整することも可能である。操作部のディスプレイは1.7倍に拡大され、バッテリー重量も3.6kgから2.4kgへと軽量化。使い勝手や安全性が格段に向上している。 JWG-1のユニット重量は15.1~16.4kg(16~24インチ、バッテリー含まず)で、耐荷重は160kg。1充電での走行距離は25km(20~24インチ)で、価格は補装具費支給制度価格で39万3900円(税抜)となる。 さらに好評だったのが、ヤマハ製ユニットを使用するユーザーを対象とした無料点検サービス。バッテリー状態のチェックやモーターの点検のほか、技術スタッフによる個別相談も行われ、ユーザーサービスも積極的な一面を垣間見れた。 今回のブース展示は、単なる製品紹介にとどまらず、技術の進化と利用者の体験を融合させた空間であった。アシストタイプの「JWX-2」は自力操作を活かした快適な移動を実現し、フル電動タイプの「JWG-1」は完全自走による独立した移動を可能にする。それぞれが異なるユーザーのニーズに応える存在であり、ヤマハが30年にわたって積み重ねてきた電動化技術の結晶といえる。来場者は試乗を通して、その操作感や制御の精密さを直接体感し、両モデルがもたらす新たなモビリティの形を実感していた。 ...
On 2025年11月10日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/11/3(月)配信 日本最大の福祉機器展「H.C.R.(国際福祉機器展)」に今年も行ってきました! ここではトヨタ ノア/ヴォクシーに新たに登場した「ショートスロープ」をレポートします。 現行モデルである3代目シエンタが登場した2022年7月、数あるビリーヴカー(福祉車両)のなかでも画期的といえる1台が加わった。それが「ショートスロープ」だ。このモデルは、車いすの乗り込み時間を大幅に短縮できることから、頻繁に車いすユーザーの送迎を行うデイケアサービスなどで大活躍すると期待がよせられてた。その後、予想どおりプロユースで重宝されることになったわけだが、同時に一般ユーザーの関心も大きく集めることになったという。 そして、今回ノア/ヴォクシーの一部改良(2025年9月2日)の際、「ショートスロープ」が加わったわけだ。対象となるグレードは「ノアタイプI、タイプII(サードシート付き)」、「ヴォクシータイプI(車いす1名仕様)」となる。 車いすを乗せるときに、30%ラクになった 今回ノア/ヴォクシーの「ショートスロープ」は、新たに2段折れのパネルを採用したことがシエンタとの違い。パネルを2段階に展開することによって、後端の高さを150mmにおさえることとなり、乗降時の介助者の負担をより低減することにつながっている。具体的には、スロープに前輪を乗せた後、後輪を乗せるときの力を30%ほど低減することに成功したという。 また、乗降時の作業を手動で行うことに不安なひとに対して、電動ウインチも装着可能(メーカーオプションで設定)。一定の距離をアシストしてくれる「自動モード」も加わった。さらに、リモコンを持ちながら車いす乗車を行う不安を解消するために「リモコンをホルダー」も追加。これはホルダーにリモコンを固定させることで、両手がふさがらずより安心して乗降作業をアシストすることができるようになった。 シエンタの「ショートスロープ」はトヨタとして初の試みであり、プロユースを想定していたが、思いのほか一般ユーザーからの問い合わせが多いことから、今回ノア/ヴォクシーにも車種を拡大したという。 ...
On 2025年11月3日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/10/27(月)配信 欧州最大の福祉機器展「REHACARE(リハケア)」に、今年も行ってきました! ここでは、車いすを一瞬で車両に固定してしまうDAHL ENGINEERING(ダール・エンジニアリング)のドッキングシステム、その最新技術をレポートします。 乗車時の車いす固定に煩わしさを感じるユーザーは少なくない。それをシンプルかつ確実に解決するのが「ドッキングシステム」だ。長年にわたって車いすと車両を安全に接続する技術を磨いてきたヨーロッパ屈指の専門メーカー、DAHL ENGINEERING は、欧州各国の自動車メーカーとも数多くの共同開発実績を持つ。ドッキングシステムの中核は、高強度スチール製のロックユニットと精密なセンサー群。車いす下部のアタッチメントをセンサーが認識すると、自動的に位置を補正し、一定以上の荷重を感知した時点でロックが完全固定される仕組みだ。驚くべきは、この一連の動作が電気的制御ではなく完全な機械構造によって実現されている点。そのため停電やシステム異常が起きても、手動で確実に解除できる設計になっている。また、寒冷地や高湿度などの厳しい環境下でも長年使用されており、耐腐食性とメンテナンス性の高さが実証済みだ。こうした「信頼できる品質」こそが、DAHLブランドの代名詞であり、リハケアの会場でも常連メーカーとして常に注目を集めている。 あらゆる車いすに対応する新技術「MADS」 今回の展示で話題をさらったのが、DAHLが新開発した車いすとドック(受け側)の間に入るアダプター「MADS(Multi Adjustable Docking System)」と床面に設置されるドックの「VarioDock」。MADSは車いすを接続するためのアダプターのようなもので、さまざまな車いすの形状に合わせて、取付角度や高さ・長さを機械的に微調整できるのが特徴だ。従来はドッキングシステムの対象外とされてきた折りたたみ式や手動式の車いすにも対応できる。一方のVarioDockは、モーター駆動による高さ調整機能付き(61~91mmの範囲で可変)で、地上高が異なる車いすの場合でもスムーズに固定できるというもので、この2つの組み合わせで、ほぼすべての車いすを素早く車両に固定することができる。従来の4点ベルト式リトラクターシステムに比べて、固定作業時間は約75%短縮されるという。 MADSブラケット部分は工具不要で取り付け・取り外しができ、折りたたみ式車いすでも日常的に使いやすい設計となっている。日本では軽量な手動式車いすを日常的に使うユーザーが多く、とくに都市部では折りたたみ式の需要が高い。そのような利用環境でも、自分の車いすをそのまま愛車にドッキングできるMADSは、手軽で安全な乗降を実現する革新的技術として大きなニーズが期待される。 VarioDockはまた、車両内で自由に動かしたり脱着したりできる3点式シートベルトを内蔵するタイプの座席にも対応しており、自在に車いすと座席を簡単に入れ替えることができる唯一のシステムでもある。 高い可変性を実現するためには、可動部分のガタつきを最小限に抑えつつ、固定後も十分な強度と安定性を保つ設計が求められる。DAHLはこの課題に対し、可変部材やロック機構に独自の工夫を加え、長期使用にも耐える構造を実現している。このMADS独自の構造は現在特許出願中であり、製品化への期待が高まっている。 DAHL ENGINEERINGは、1987年にデンマークで創業した老舗のモビリティ技術メーカーである。車いす固定システムや車載安全技術を専門とし、欧州の主要自動車メーカーとの技術提携を多数行ってきた。同社の製品は、ドイツのTÜV(テュフ)認証をはじめ、欧州規格ISOおよびクラッシュテスト(衝突試験)をクリアするなど、国際的にも最高水準の安全性を誇る。さらに、DAHLのシステムは単なる製品ではなく、モジュール式の安全プラットフォームとして設計されており、車種や車いすのタイプに応じて柔軟にカスタマイズできるのが大きな特徴だ。メーカーごとに適合した車いすモデル一覧を公開するなど、ユーザーが自由に車を選べる環境づくりにも力を入れている。 ...
On 2025年10月27日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/10/24(金)配信 「最小単位から新しいモビリティの未来を作っていく」。ダイハツの「e-SNEAKER」は、いわゆる電動車いすでありながらも、従来の電動車いすとは違ったアプローチで開発された。その新鮮なルックスは、大阪・関西万博でも老若男女を問わず、大好評をもって受け入れられたという。ここでは、「e-SNEAKER」が生まれた背景と、開発におけるこだわりを開発に携わったエンジニアから解説してもらった。 「乗りたくない」を「乗りたい」に変える挑戦 e-SNEAKER最大の挑戦は、電動車いすにまつわる従来のイメージを覆し、「乗りたい!」と思わせることにある。外出と社会への参加を促し、人の心身の衰えを防ぐ取り組みにおいても、移動手段は重要な課題だ。しかし、電動車いすには、歩行が困難な人が仕方なく乗るものというイメージがまだまだ根強く、抵抗感を持つ人が少なくない。e-SNEAKERプロジェクトの取りまとめを行った鐘堂信吾氏は、自身の体験も交えて、電動車いすに対するイメージを変えたかったと語る。 「ダイハツは、モビリティを通じてお客様の生活を支える使命のなかで、運転を引退した後の移動手段まで、生涯にわたる移動をサポートする責任があると考えております。そして、『最小単位』にこだわりものづくりを行ってきたなかで、モビリティの最小単位はなにかと考え電動車いすのカテゴリーへの挑戦が決まりました。かつて私自身が手術を受けたときに車いす生活を送った経験があったのですが、やはり車いすに乗ることには心理的な抵抗がありました。身体の不自由さを象徴するような気がしたからです。だからこそ我々は、お客様が積極的に『これなら乗りたい』と思っていただけるような商品を作りたいと考えたのです」。 そこで辿り着いたのが、歩行する人間と同じ目線になるよう、座る位置(アイポイント)を高くすることだった。 「歩くと同じ目線で移動できることは、乗る人の気分に大きく影響します。これは譲れない必須の要件でした。しかし、重心が高くなると転倒しやすくなるという背反が生まれます。この課題を解決するため、サスペンションで不安定さをカバーし、ホイールベースを広げることで、乗り物としての安定感を確保しました」 シンプルな技術と操作性 e-SNEAKERは、シンプルさにもこだわっている。操作方法についても、アクセルとブレーキ(回生)はグリップをひねるだけ、左右へ曲がる際はハンドルを左右に曲げるだけと、直感的に動かすことができるように設計した。 「みんな何も言わなくてもこうするでしょう。説明や練習がいらないようにしたかったのです」と鐘堂氏。アクセルとブレーキは電気自動車でいうところのワンペダル方式。慣れれば手動ブレーキをほとんど使うことなく、速度を調整できるようにした。もっともよく使う速度域での滑らかな加速・減速にこだわり、慣れない人が急に動かしてしまうことがないよう、特性も調整したという。 e-SNEAKERは、長距離移動を想定していない。最高速度は時速6kmで、1時間乗り続けると6km進むが、市場調査によると一般的な利用シーンは500mから1km程度。まさに移動の最小単位だ。 「ちょっとした買い物や人と話しながら移動するための乗り物です。実際、万博でも一日使ってもバッテリーはなくなりませんでした。行って、遊んで、帰る。こうした乗り物は、本当にちょっとの移動にしか使われないのです」。 長時間の乗車を想定しないからこそ、座面を少し前に倒すなど、快適さを追求した工夫が可能になった。 未来の移動をデザインする 「e-SNEAKER」という名前には、移動の最小単位である「歩く」ことに寄り添った最小のモビリティであるという意味が込められている。同時にそこには世の中のマインドセットを変えたいという願いも含まれている。「身体の不自由な方だけでなく、誰もが気軽に使える最小のモビリティとして、e-SNEAKERという言葉を広く使っていただるようになれば嬉しい」と鐘堂氏。 実際、150台を提供した大阪・関西万博では、多くの人々がe-SNEAKERを「乗りたい」と体験。会場ではe-SNEAKERを描いた絵が1500枚以上も描かれたという。電動車いすから新しい最小単位モビリティへ。ダイハツとe-SNEAKERの挑戦は続く。 ...
On 2025年10月24日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/10/20(月)配信 欧州最大の福祉機器展「REHACARE(リハケア)」に、今年も行ってきました! ここでは、車いす対応にカスタムされたID. Buzzをレポートします。 メーカーではなく、カスタムビルダー 「REHACARE 2025」の広い会場でひときわ大きな注目を集めていたのが、ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州に本拠を置く Sodermanns Automobile(ゼーダーマンス・アウトモビーレ) のブースだ。中央にはフォルクスワーゲンの電動ミニバン「ID. Buzz」をベースにした車いす仕様車が展示され、周囲にはひっきりなしに来場者が集まっていた。 Sodermanns Automobileは、ドイツ国内でも屈指といえる福祉車両のカスタムビルダーだ。特徴的なのは、自社で製品を製造するのではなく、各メーカーの装置を組み合わせ、個々のユーザーに最適化した車両をコーディネートしていくことにある。 Sodermanns Automobileが車いす仕様車として提案しているのは、電動展開スロープ、床面の低床化、センサー連動の車いす固定システム、電子制御ハンドコントロールユニット、回転・昇降式シート、スロープとスライドドア動作の同期、電源強化および複数装置を制御するコントロールユニット、ジョイスティック・呼吸スイッチ等の補助操作インターフェース、フットスペースの拡張、ペダル配置の調整、視界補助カメラ、障害物検知センサー、介助者の操作簡略化機能(プリセット動作)、内装最適化(手すり、滑り止め床材、収納)などと非常に多岐にわたるが、今回展示されたID. Buzzにはその多くが装備されている。まさにフルコーディネートされた究極の車いす仕様車と呼べる1台だ。 なお、Sodermannsでは車両のカスタムだけでなく、運転免許の取得支援や助成金の申請手続き、購入後の乗り心地調整対応、そしてアフターメンテナンスまでを一貫してコーディネートしている。 欧州と日本における福祉車両の違い 欧州では、ユーザーそれぞれの身体条件や生活環境に合わせて装備を柔軟に組み合わせる「コーディネート」が主流だ。Sodermanns... ...
On 2025年10月20日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/10/17(金)配信 介助する側、介助される側、双方の立場になってビリーヴカーをインプレッション! レポートするのは、介護経験があり自身も福祉車輌取扱士の資格を持つタレント・モータージャーナリスト 竹岡 圭。今回はダイハツ e-SNEAKERです。 ...
On 2025年10月17日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/10/15(水)配信 欧州最大の福祉機器展「REHACARE(リハケア)」に今年も行ってきました! 今回は、最大270kgの耐荷重を誇る車いす「ECLIPSE Tilt(エクリプス・ティルト)」をレポートします。 会場を歩いていると、日本の製品とは雰囲気の異なる車いすが目に留まった。 太く堅牢なフレームと力強い足まわり、幅広の座面、そして黒を基調とした重厚なデザイン。それが、デンマークの医療機器メーカー COBI REHAB(コビ・リハブ) が展示していた「ECLIPSE Tilt」だ。ヨーロッパでは近年、体格の違いを特異なものではなく“自然な個性”として受け入れる考え方が広がっている。その流れの中で発展したのが、肥満・高体重者向けの医療・介護支援を指す 「バリアトリック(Bariatric)ケア」 だ。 この分野では「どんな体格の人も尊厳を持って生活できる」という視点が重視されている。そして、その思想を象徴する車いすがこのECLIPSE Tiltである。一般的な車いすの耐荷重はおよそ100~130kg前後だが、ECLIPSE Tiltはその2倍以上となる270kgに対応。体格が大きいことを理由に移動を制限されたり、窮屈な姿勢を強いられることがない。 デンマーク流の人間工学設計 COBI REHABは、高体重者や肥満患者のための医療・介護機器を専門に開発するメーカーだ。その設計思想の根底にあるのは、「ユーザーの尊厳を守ること」。ECLIPSE Tiltは、ただ頑丈なだけではない。背もたれと座面を独立して角度調整できる機構を採用し、姿勢保持の快適性に徹底的にこだわっている。これは単なるリクライニングではなく、座面の角度を変えることで体圧を分散し、呼吸や血流への負担を軽減する仕組みだ。また、シートクッションには通気性と耐久性を両立させた高密度フォームを採用。大柄なユーザーでも沈み込みすぎず、しっかりと安定した姿勢を保てる。長時間の着座や介助時の体位変換など、さまざまな場面でユーザーと介助者の双方が快適に動けるよう工夫されている。 実際に触れてみると、介助者側への配慮も随所に感じられた。ハンドルの高さは工具なしで調整でき、ブレーキレバーは大型でしっかり握り込める。フットサポートの高さ調整や取り外しも容易で、乗り降りの安全性が高い。さらに後輪のキャスター構造は、方向安定性と回転の軽さを高いレベルで両立。270kgのユーザーを乗せた状態でも、驚くほど軽やかに方向転換できるという。担当者によれば「重量に耐えるため剛性を上げると操作が重くなりがちですが、支点位置やタイヤ圧まで最適化しています」とのこと。... ...
On 2025年10月15日 / By wpmaster文と写真●Believe Japan 2025/10/11(土)配信 欧州最大の福祉機器展「REHACARE(リハケア)」に今年も行ってきました! ここでは折りたたみ式電動車いす VOLKS ROLLI(フォルクスロリ) をレポートします。 軽量かつ折りたたむことができる Fellerhoff MED TEC(フェレルホッフ・メドテック)が開発したVOLKS ROLLIの最大の特徴は、電動車いすながら折りたたたむことができ、その状態でも電動で車輪を動かすことできることだ。ん? どういうこと? と思うかもしれないが、そのメリットは、ハッチバックのフォルクスワーゲンゴルフに装着されたスロープを登っていくVOLKS ROLLIの写真をみればわかるだろう。つまり、車両積載時に折りたたんでコンパクトになった車いすを、スロープを使ってスマートにラゲッジに収納することができるというわけ。車いすを車両に積み込むのは非電動でも面倒な作業で、重量が増す電動車いす場合はなおさら。そして、車両への積載もミニバンタイプじゃないと難しかった。その意味で、この製品は革新的といえる。 VOLKS ROLLIの本体重量はわずか28kgで積載荷重は150kg。最高時速は6km、航続距離は24kmを誇る。バッテリーはフレーム左右にそれぞれ収められているのが特徴。そして、折りたたみ機構もシンプル! アームレストは跳ね上げ可能でフットレストも収納できるため、クルマはもちろん電車移動も可能だ。使いたい場所へ持ち運ぶことができる。 操作はジョイスティックによる前後左右のコントロールで、操作感は軽く直感的。座面の高さ(55~59cm)や幅(49~59cm)は調整可能で、ユーザーの体格や好みに合わせられる。「だれもが気軽に持ち運べる電動車いすをつくる」というメーカーの理念が細部にまで反映されている。 未来のスタンダードへ ドイツ西部のボーフムに本社を置く医療機器メーカー Fellerhoff... ...
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