文と写真●Believe Japan
近年めざましい進化を遂げている福祉車両。そのなかで大きなトレンドといえるのが、車いすユーザーが「自分で運転する」タイプの車両だ。とくに欧米では、自由なモビリティの追求が社会の大きなテーマとなっており、今回のREHACAREでもさまざまな運転補助装置付車が展示されていた。その多くは日本でもおなじみの車いすを自分で収納して運転するタイプなのだが、ここでは「車いすのまま乗り込んで運転できる」ものをご紹介する。
ミニバンやワゴン、大きめのサルーンが多く展示された会場で、ひときわ異彩を放つクルマがあった。ジープブランドのコンパクトSUV「レネゲード」だった。近づいてリヤハッチを開けると、傾斜の緩やかなスロープの先にはダッシュボードまでフラットなフロアが広がる。ブースを訪れた車いすユーザーは実際に乗り込み、ステアリングの前まで移動し、「自分が座っている車いすが運転席に早変わりする」という感覚をたしかめていた。彼らは一様に笑顔でスタッフに話しかけ、5万ユーロ(およそ650万円)という価格にも納得している様子だ。介助者の手を借りずに自分で乗車、運転できるクルマは、車いすユーザーのモビリティを劇的に改善してくれるアイテムとして、ヨーロッパでは以前から大きな関心を集めている。しかし、ミニバンをベースにした車両は存在するものの、このレネゲードのようにボディサイズの小さなモデルは皆無で、今後大きな需要が見込まれている。
世界的なワイン産地フランス西部ボルドーにあるA.C.A France(A.C.Aフランス)は、歩行が困難な方などのために年間約450台の福祉車両を手がけている。数年前からシュコダ(フォルクスワーゲンのチェコ子会社)のコンパクトモデルをベースに「車いすのまま乗り込み、運転できるクルマ」を開発していたが、このモデルが販売停止となったため断念。2年前からは、新たにジープ レネゲードで開発をスタートさせることになった。レネゲードを選んだ理由は、コンパクトなボディサイズながら、室内にある程度の高さがあり、車体が「四角」に近いことだったという。
これが福祉車両? と思ってしまうレネゲードのスポーティな外観。
リヤゲートを開けてスロープを展開。スロープの長さは短いが、低い位置から伸びるため角度が緩やかで、手動式の車いすでも登れるように設計されている。開発にあたっては標準のレネゲードから、フロア全体を下げるという大掛かりな改造が行われている。
一切シートがない車内。助手席と後席は折り畳み式になっているが、1台1台、ユーザーに合わせて「使いやすいクルマ」に仕上げられるという。リヤ開口部付近のルーフは、乗り込むときに頭をぶつけないよう工夫が施されている。
後席も広々としたスペースで、4名乗車、荷物の搭載も標準車と変わらなくできるのが便利だ。
助手席は畳まない状態でも、車いすの乗り降りに干渉しない。
「車いすで乗り込んでそのまま運転できる車両は、現在一般的に7~8万ユーロと高価です。ユーザーの方が、サイズや価格面でもっと手軽に購入できる車両を提供することが、目下の課題です」と語るのは、販売責任者のニコラ コンドットさん。A.C.Aフランスは、メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンをはじめ、プジョー、フィアット、フォード、ジープといったメーカーのモデルをベースに、車いすを収納してから運転するタイプの車両を提供している。今後はそれに加え、各ブランドのコンパクトカーを中心に「車いすのまま運転できる」車両の開発を加速させていく考えだ。
A.C.Aフランスは、食事や入浴などの日常生活の動作を通じて心身のリハビリテーションを行う作業療法士のチームを社内に設置し、ユーザーにとって本当に質の高いサービスを追求している。また社内には、打ち合わせやフィッティング、購入してからの整備などで訪れたクライアントのために、高度にバリアフリー化された宿泊施設も完備している。
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